研究課題
基盤研究(C)
ミドリイシサンゴ幼生の着生を誘引するバクテリア群集を、生態系を部分的に保持したままの混合状態で培養する方法を確立すべく検討した。事前に3ケ月間サンゴ礁内に浸漬した素焼きタイルの表面を掻き取って滅菌海水に懸濁し、懸濁液を直径13mmのセルロースアセテートフィルターに染み込ませ、寒天培地の上に置いて3〜5日間培養した。タイルの浸漬場所の環境の違いが明瞭に結果に現れ、経験的に適地とされている環境条件下に浸漬したタイルからの植え継ぎ系列では8系列中7系列と効率で変態誘導活性を示す混合培養フィルターが得られた。植え継ぎの安定性は、活性だけでなく、DD-PCR法によってバクテリア組成の変遷をDNAレベルでモニターし、第2代目以降はある程度の安定性が見られることが確認できた。フィルターを用いた混合培養によって、バクテリア群集を混合状態のままに培養・植え継ぎができることがわかり、環境中のバクテリアの研究全般に有効な新手法であることが明らかとなった。次に、検定で活性を示したフィルターから、活性を有するバクテリアを単離培養できるか試みた。11枚のフィルターから単離培養を行い、計229株について活性検定を行ったところ、3枚のフィルターから得られた11株に変態誘導活性があった。これは従来の単純な単離培養に較べて10倍近い効率である。単離した変態誘導バクテリア株の種の同定を、16SrDNA塩基配列の決定と系統解析によって行った。その結果、Alteromonas属、Pseudoalteromonas属、Vibrio属に加え、αプロテオバクテリア綱に含まれる新しい科に属すると考えられるものと判明した。1枚の混合培養フィルターから2属または3属にまたがる株が得られていたことが分かり、バクテリア試料を採取した基盤面積1cm四方という狭い面積の中に多様な変態誘導株が混在していたことが明らかになった。
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