研究概要 |
形態の進化と分子進化を結びつけることは、生物進化を考えるにあたり非常に重要なことである。報告者は、哺乳類における遺伝子の多様化と形態の関係についての解析を行った。哺乳類は近縁である鳥類・爬虫類と較べて、(I)一般に卵生ではなく胎生、(II)体毛をもつ、(III)脳が大きい、(IV)嗅覚が鋭い、など多くの形質・形態の違いが存在する。以上の形質に関係する遺伝子が、どのように哺乳類の系統で多様化したか、また、他に哺乳類の系統で多様化した遺伝子にはどのようなものがあるかを研究することは極めて重要であるにも関わらず、網羅的な研究は殆どなく、嗅覚受容体など個々の遺伝子における解析のみがなされている。報告者は、哺乳類特異的形質の進化と遺伝子多様化の連関を探るために、有袋類・オポッサムを含む複数の哺乳類および鳥類、両生類、魚類のゲノム配列を収集し、ゲノム配列から推定された遺伝子による相同性検索と生物間の系統関係の情報に基づき、哺乳類で多様化した遺伝子の候補を探索した。31,302の検索配列による相同性探査の結果、1,642個が探索され、冗長なものを省くと203遺伝子族が候補として挙がった。この中には、予備解析の結果から哺乳類の系統で多様化したとことが既知であった、妊娠関連抗原PSβG、毛を構成するケラチン、嗅覚受容体、性決定遺伝子SRYなどが含まれるとともに、プロトカドヘリン・カリクレイン・γクリスタリンなどでも、哺乳類における遺伝子多様化が詳細な系統樹推定から観察され、文献調査などから、これらは脳・中枢神経系の発生に関わる可能性があることが示唆された。この研究については日本進化学会第7回大会で報告済みであり、論文化中である。また、正確で高速なマルチプルアライメント及び系統樹推定プログラムの改良を九州大学医学部の加藤和貴助教授と随時行っており、本解析に重要な役割を果たしている。
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