研究概要 |
本研究では生物進化における謎の1つである多細胞生物出現の過程で獲得したシグナルについて、最も原始的な多細胞生物である細胞性粘菌を用いて解析した。 1.既に動いているSTATaサプレッサー遺伝子のスクリーニングを継続し、新たに12個のサプレッサー遺伝子を得た。 2.サプレッサーのうち、ncRNAをコードするdutA遺伝子ではSTATaのリン酸化が変化し,チロシンキナーゼの不活性化を通してSTAT活性を制御していた。この結果については論文としてまとめ投稿しアクセプトされた。 3.Dd-STATaサプレッサー遺伝子Dd-CH1(SunB)がコードするタンパク質は全ての真核生物に保存され膜タンパク質と考えられる。(1)GFP融合タンパク質を観察から細胞内膜に存在し、(2)タンパク質のN末端領域がdominant negativeとして作用していた。(3)遺伝子破壊株の過程で,ゲノムデータベースと異なりゲノム中に遺伝子が2コピー存在することが判明した。現在1コピー目の遺伝子破壊に成功し,2コピー目の破壊を行なっている。 4.Dd-STATaサプレッサー遺伝子NK20は100アミノ酸程の極めてセリンとグリシンに富む小さなタンパク質をコード出来るが、翻訳されるか不明であった。GFPタグ付加により翻訳されていることを確認した。細胞性粘菌ゲノムには100個程のファミリー遺伝子が存在するが,予定柄細胞でのみ発現する遺伝子のみサプレッサーであった。 5.プログラム細胞死関連遺伝子をデータベースからピックアップし、ESTクローンが解析可能なもの14遺伝子について、STATaの標的遺伝子になっているかを調べた。その結果、少なくとも3つの遺伝子はSTATaの標的遺伝子になっている可能性が極めて高いことが判明した。これらについては遺伝子破壊株の作製を試みており,2つについて最終確認の段階まで来ている。また、全ての遺伝子についてプロモーターを単離して、3つについては解析出来た。その結果ELMO/CED-12 familyのホモログ遺伝子の1つは明確にDd-STATa遺伝子破壊株において発現が低下していることが確認された。さらに、過剰発現株の作製とGFP融合タンパク質の発現を試みており,現在その詳細な解析を行なっている。
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