研究概要 |
ヒト第一大臼歯のサイズへの環境の影響を分析するため,異性二卵性双生児と同性双生児の性差を比較した。ノギスを用いて歯冠サイズを計測した。上顎歯では,異性双生児は同性双生児より女性で平均値が大きく,男性で小さい傾向があった。近心の咬頭では両双生児間の差が大きく,異性双生児では性差がとくに小さかった。下顎歯においては両双生児間に性差パターンの違いは認められなかった。Dempsey, et. al.(1999)は異性双生児では性ホルモンの影響が男女の胎児に同じように現れるため,歯冠サイズの性差が小さかったと述べている。上顎の結果は彼女らの仮説を支持していた。下顎歯には上顎歯よりも強く遺伝的な要因が働いたものと考えられる。次に咬頭面積の遺伝的変異性を分析した。咬合面観の写真上で各咬頭の面積を計測した。男女間の分散パターンに異質性はなかったので男女のデータをプールして共分散構造分析を行った。上顎大臼歯のプロトコーンとメタコーンを除いてAEモデル(相加的遺伝要因と非共有環境要因)が最も適合していた。プロトコーンとメタコーンは赤池の情報基準量によってCEモデル(共有環境要因と非共有環境要因)が選択され,遺伝要因の寄与が検出できなかった。遺伝率は上顎では47〜84%,下顎では62〜85%であった。歯冠全体の面積では比較的高い遺伝率を示したが,各咬頭はやや低かった。最も低い遺伝率を示したのはパラコーンであった。以上からパラコーンは進化的に最も安定た咬頭であり,遺伝的変異性が小さいことが示された。
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