研究概要 |
暗呼吸は作物の成長と維持に不可欠なエネルギー供給の過程であり,暗呼吸と乾物生産の関係を定量的に把握する必要がある.本研究では10種の作物を供試し,生育に伴う成長効率を比較することで,各作物の乾物生産に及ぼす暗呼吸の影響を明らかにすることを目的とした.各作物の個体群成長速度(CGR)は生育の進行とともに次第に増加し,生殖成長の開始期から登熟初期にかけて最大となり,その後登熟の進行とともに収穫期になるほど低下した.各作物ともに個体のRsは生育初期に最大値をとり,生殖成長の開始期まで急速に低下し,登熟期間中はほぼ一定に推移した.栄養器官のRsは茎,葉身ともに個体のRsと類似した推移を示したが,生殖成長期における葉身のRsが茎よりも高く推移した.貯蔵器官のRsは全ての作物で発達の初期に最も高い値を示し,その後急速に低下して収穫期には栄養器官と同様かそれ以下の値を示した.貯蔵器官の窒素含有率は生長初期に高くその後低下するが,貯蔵器官にタンパク質を多く蓄積していたヒマワリ,ダイズ,ラッカセイでは成熟後期に再び高くなった.個体のGEは栄養成長期ではトウモロコシ,ヒマワリ,ケナフ,オオムギで60%以上と高かったのに対し,バレイショ,ダイズ,ラッカセイでは39〜55%と低く,これには暗呼吸量が大きいことが影響していた.生殖成長期における個体のGEは大きく低下し(バレイショを除く),これには非同化器官の増大による維持コストの増加と転流に伴う栄養器官の乾物重の低下が関係していた.生育後期に乾物の分配割合が大きくなる貯蔵器官のGEと貯蔵物質の粗脂肪含有率の間には有意な負の相関関係が認められ,油脂合成に関わる呼吸コストが大きいことが示唆された.以上より,作物種によるGEの変動には栄養器官の成長と維持に関わる暗呼吸量や貯蔵器官の乾物充填にかかるコストの相違が大きく関係していると推察された.
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