研究概要 |
本研究は、北方地域における鑑賞価値の高い自生植物の中でもとくに種子が散布されてから,子葉が地上に出芽するまでに2度の冬を必要とする植物について、それらの発芽生態と種子休眠機構を明らかにするとともに、種子から人為的に増殖する際の実用的な知見を得ようとした。 オオウバユリは,種子散布時には未発達の胚を持ち,種子散布から発根までに18ケ月,そして子葉の出芽までに19ケ月を必要とし,その休眠はDeep simple morphophysiological dormancyに分類できた。25/15℃(60日)→15/5℃(30日)→0℃(120日)→15/5℃の温度推移によって,自然条件下では18ケ月を必要とする播種から発根までの期間を,7〜8ケ月に短縮することができた。秋に採取した種子を乾燥5℃で貯蔵しておき,翌年の7月までに播種した種子は,次の年の春に88%以上が出芽した。しかし,翌年の8月以降に播種すると,翌年の春にはわずかしか発芽しなかった。オオウバユリの種子は,胚が生長して発根に至るまでに,高温→中温→低温→中温という一連の温度条件を必要とするために,8月以降に播種した場合は,十分な高温の期間が与えられないことによって,発芽できなかったと考察した。これらの結果はウバユリ属の種子休眠タイプを世界で始めて決定したものであり,種子生態学の分野に大きな貢献を果たすと同時に,人為的増殖を目的とした場合の貴重な情報ともなる。 オオバナノエンレイソウも,形態生理的休眠をもつ種子であった。しかし,発芽フェノロジーは,オオウバユリとは異なっていた。7月下旬に散布された種子は,翌年の夏の間に胚成長してそのまま発根し,出芽は2回目の冬を経た春となった。このような発芽過程に必要な温度条件を決定するために,恒温器を用いて33もの温度区を設定したが,現在の所,恒温器内で発根させることに成功していない。
|