研究概要 |
セイヨウナシの結実管理を安定かつ省力化するため,ゲノミックPCRによるS遺伝子型推定システムの開発と早期生理落果性(自家摘果性)の調査に取り組んだ. 雌しべからナシ亜科のS-RNaseに特徴的な1次構造を有する17種類の3-RNase cDNA(Sa-,Sb-,Sc-,Sd-,Se-,Sg-,Sh-,Si-,Sk-,Sl-,Sm-,Sn-,Sp-,Sq-,Sr-,Ss-,St-RNase)をクローニングした.その配列からデザインしたプライマーセットを用いたゲノミックPCRにより,17種類のS-RNase断片の増幅に成功した.Sg(1,906bp),St(1,642bp),Sl(1,414bp),Se(998bp),Sb(440bp)対立遺伝子は増幅断片のサイズから識別された.約1.3kbのSk-およびSq-RNase,約350bpのSa-,Sc-,Sd-,Sh-,Si-,Sm-,Sn-,Sp-,Sr-,Ss-RNase対立遺伝子は断片長による識別が困難であり,11種類の制限酵素で切断することで識別し,17種類のS-RNase対立遺伝子を識別するCAPSマーカーシステムを開発した.このシステムを用いて109品種の3遺伝子型を推定した.同じ推定8遺伝子型を持つ品種は交雑不和合性を示し,セイヨウナシ品種間の交雑不和合性が明らかになった. S遺伝子型に基づく授粉や受粉樹の混植は結実の安定化をもたらす反面,予備摘果作業時間を増加させる.‘ル・レクチェ',‘オーロラ',‘スタークリムソン'では,受粉後2週問頃から生理落果が観察され,予備摘果作業時期には果そう当たり幼果数が1個前後に減少した.これらの収穫果実の形質は無摘果区と予備摘果区間で差異が認められなかったことから,これらの品種の無摘果栽培の可能性が示唆された.
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