研究概要 |
関口病斑(Se)形成変異イネ(品種:関口朝日)にいもち病菌を接種すると,カタラーゼ活性の低下とトリプタミン(Try経路を介した過酸化水素の生成・蓄積が起こり,その結果Se形成を伴った光依存的抵抗性が誘導される.トリプトファン(Trp)合成酵素関連遺伝子の発現を調査すると,いもち病菌接種後のイネ葉では特にtryptophan synthasB(TSB)遺伝子の光依存的な発現が見られた.しかし,Trp合成阻害剤グリホセート(Gly)を前処理したイネ葉では菌接種後,光照射下においてもTSBの発現が抑制されると共に,Try蓄積やSe形成も著しく抑制された.しかし,Gl溶液にTrpを添加しておくと,Glyの前処理効果が消失し,Se形成やTry蓄積が再び認められた.さらに,菌接種後のカタラーゼ活性を調査すると,Gly前処理葉では蒸留水処理葉と比べて光照射下においても高い活性が維持さていた.これらの結果より,いもち病菌接種葉における光依存的Se形成には葉緑体におけるTrp合成とその後の経路の活性化が重要な役割を果たしていることが示唆された. また,光合成阻害剤DCMUを前処理したイネ葉ではいもち病菌胞子接種後のSe形成,Try蓄積及びTry関連酵素活性は光照射下でさえ著しく抑制されるだけでなく,カタラーゼ活性も高い値を維持していた.そこでカタラーゼの作用を抑制するサリチル酸(SA)の蓄積量を調査すると,いもち病菌接種葉ではSAの著しい蓄積が見られ,またDNA崩壊も観察された.しかし,DCMU前処理葉ではSA蓄積量が著しく抑制されると共に,DNA崩壊も観察されなかった.これらの結果より,いもち病菌接種葉における光依存的Se形成に必要なTry経路の活性化には葉緑体におけるTrpやサリチル酸の合成が重要な役割を果たしていることが示唆された. オオムギにおいてもいもち病菌に対する光依存的な抵抗性の誘導が認められ,それにはトリプタミン経路が関与している可能性を示した.一方,光合成阻害剤DCMUを前処理後にいもち病菌を接種したオオムギ葉では,光照射下でさえも多数のいもち病斑の形成と細胞内での著しい侵入菌糸の伸展が観察された.また,光合成阻害剤の前処理葉では蒸留水の前処理葉に比べて,モノアミン酸化酵素の活性とトリプタミン蓄積は著しく抑制された.これらの結果より,オオムギに光誘導抵抗性機構が存在し,その誘導には光合成が関与している可能性が示された.
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