研究概要 |
本研究では,海産無脊椎動物グミ(Cucumaria echinata)のCa^<2+>依存性レクチンCEL-I, CEL-III, CEL-IVを中心に,その糖認識機構の解析ならびに部位特異的変異による新規な糖特異性を有する人工タソパク質の開発を目指した。これらのうち,CEL-Iについては,糖結合部位アミノ酸残基に種々の部位特異的変異を導入した結果,Gln70とArg115,特にGln70がGalNAcへの高い特異性に重要な役割を果たしていることを明らかにした。また,Arg115を変異させることによって,CEL-Iの糖特異性を変化させうることを示した。一方,CEL-IVに関しては,X線結晶解析により糖結合部位に存在することが明らかになったTrp79を,それぞれTyr, His, Alaに置換した部位特異的変異体を作製し,その糖結合性について検討した。その結果,N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)に対する変異体の親和性は,Trp>Tyr>His>Alaという順に低下することがわかった。このことから,GalNAcに対する結合力には芳香族アミノ酸とGalNAcの疎水面との疎水的相互作用が大きな役割を果たしているものと考えられた。溶血性レクチンCEL-IIIについては,そのドメイン3の標的細胞膜内での会合及び膜孔形成における役割を解明することを目的として,ドメイン3全体またはその中のαヘリックス領域をグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)と融合させたタンパク質を大腸菌によって発現させ,その性質について検討した。その結果,ドメイン3及びαヘリックス領域のGST融合タンパク質は,いずれも強い自己会合性を示した。さらにαヘリックス領域に現れる特徴的なVal残基の繰り返し配列をAla残基に置換した融合タンパク質についても発現したところ,Alaへの置換数が増加するに従い会合性は著しく低下した。これらのことから,CEL-IIIドメイン3のαヘリックス領域はCEL-IIIの標的細胞膜内での自己会合と膜孔形成に重要であり,特にVal残基クラスターが必要であることが示唆された。
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