研究概要 |
水産資源管理の研究では従来,資源の生物学的側面に基礎を置く動態モデルを中心に論議が展開されてきた。しかし,現実の管理を実行するのは漁業者であるから,効果的な管理の実現のためには資源の動態のみならず漁業者の行動動態をも予測したうえで管理方策の選定や制度設計を行う必要がある。本研究では,経済学分野における基本理論として適用範囲の拡大しているゲーム理論を水産資源管理へ応用することにより,現実的で有効な管理システムを提言するとともに,資源管理理論の新機軸を拓くことを目的に研究を実施した。 対象魚種の生活史タイプ,価格関数等に関する様々な条件を仮定した資源動態・漁業モデルを用いてコンピュータシミュレーションによる検討を行った結果,以下のことが明らかとなった。 個別漁業者の収益をプールしたうえで各漁業者の魚種別CPUEと漁獲金額にもとづく得点式に従って収益を再配分する「競争原理導入型プール制漁業」は,漁獲率一定漁業,従来型(協力型)プール制漁業,自由操業よりも産卵親魚量を増大させ,長期的に高い収益を揚げる点にNash均衡が達成される。長寿命型の資源を対象とする場合や,漁獲量増大時の価格下落が激しい場合には,とくに大きな効果を発揮する。投入可能な努力量の上限設定が過大な場合でも高いパフォーマンスが期待できる。対象とする資源が複数ある場合には「スイッチング漁獲」が引き起こされ,資源量の低下した資源が保全される。このような収益再配分機構を有する漁業管理システムでは,「漁獲ゲーム」における利得表を強制的に改変することを通じて漁業による外部不経済を内部化し,いわゆる「共有地の悲劇」や「囚人のジレンマ」を回避することが可能である。大規模な資源解析を必要とせず,収益の増大や産卵親魚量の保護等の様々な目標に合わせた管理が可能な,汎用性の高いシステムである。
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