研究概要 |
運動飼育が養殖魚の肉質に及ぼす影響を調べる前段階として,アユを用い,養殖魚と放流魚との肉質の比較を行った。材料には,奈良県吉野川産の天然アユ・奈良県吉野漁協の養殖タンクで育てられたアユを使用した。5から10月の5回にわたりサンプリングを行った。破断強度は天然アユが養殖アユよりも高い傾向にあり,組織観察からもその傾向は確認された。しかしながら,冷蔵中に軟化する傾向は両者とも同様であった。 アユに続き,代表的な養殖魚であるマダイ(体重約200g)を用い,異なる流速(止水・14cm/sec)での飼育を試みた。破断強度は即殺時の1ケ月と4ケ月では対照飼育の強度が有意に高かった。筋細胞の断面積は飼育期間の延にともなって増加したが,試験区間での差異は見られなかった。ATP量およびグリコーゲン量は対照区に多くなる頃向にあった。コラーゲン量は試験開始時が最も多く,その後減少した。ミオグロビン量は運動区において多くなる傾向にあった。以上の結果から,運動によりミオグロビンが増加したものの,破断強度の強化にはつながらなかった,また,コラーゲン量は運動の多少に関わらず減少しており,合成の促進は生じなかったと思われた。 小さい個体に対して運動の負荷が大きすぎたと考えられたため,約1kgの個体を用いて前年度と同様の試験を行った。両区の間で有意な差が認められたのは破断強度,破断曲線の初期傾き,コラーゲン量であった。破断強度では運動群が高い値を示したのに対し,初期傾きでは即殺時では運動群が高く,死後24時間では対照群において高い値が見られた。総合的に見ると,死後24時間以内での肉質の変化は運動群において小さかった。なお,コラーゲン量に関しては運動するほど減少するという結果が得られたため,運動による肉質の強化にはコラーゲン以外の部分による関与が推測された。
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