研究概要 |
本研究の課題は、イギリス農業の実証分析をもとに、原理論における土地合体資本にかかわる論争点、並びに絶対地代を収量に比例する地代の残像とする阪本楠彦氏の所説の妥当性について検討したものである。成果は以下のとおりである。 1,原理論における土地合体資本の投下問題についての理論的解明 (1)従来の研究の多くが原理論における土地合体資本の投下の阻害要因を土地所有の力に求めていること、(2)差額地代の第二形態を動態的に説こうとする宇野弘蔵氏にあっては、阻害要因を正しく経済情報の不完全性に求めているが、それが解決可能な問題であるとの認識までは至っていないこと、(3)原理論における土地合体資本の投下の困難は、有益費補償慣行の成立による費用・便益の内部化によって解決可能であること、(4)原理論において土地合体資本を説くには、原理論の本論たる経済原論の地代論(地代の本質論・構造変動論・動態論)と原理論の各論の地代論という構成で、地代論を再構成することが望ましいこと、などを明らかにした。 2.有益費の実態分析 イギリスの現地調査を行い、有益費補償の評価額の地域的多様性が、1948年農業借地法の制定後に縮小したこと、現在では補償評価額の地域的差異ではなく鑑定業者間の差異が問題であること、ヒル・ファーミング地域には特有の有益費補償項目が存在すること、有益費補償の法制化がイギリス及びフランスに限定された現象であるらしいこと、などを明らかにした。 3.地代の実態分析 19世紀末の農業大不況の過程においてみられた現実の地代と剰余としての地代の乖離は、阪本楠彦氏が主張したように収量分割的な地代決定方式に由来するのではなく、地代延納を背景とした両者の乖離と捉えるべきであることが、イギリスでの現地調査及び文献の検討から明らかとなった。
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