研究概要 |
日アセアンFTAを本格的に軌道に乗せ,新大陸型の大規模畑作経営をベースにした米国,豪州等の主張に対して,零細な水田稲作を中心とする共通性を持つ東アジア諸国が連携を強め,東アジアの固有性が確保できるような国際貿易ルールを共同提案していくためには,現時点で東アジア諸国間に存在する生産コストの格差等の異質性によって生じるFTA利益の偏在性を調整する東アジア共通農業政策を構築できるかどうかが鍵を握る. 本研究では,自給率,財政負担,環境負荷,関税率をキー・ファクターとし,それらの相互依存関係をシステマティックに勘案して,関税引き下げの限界や必要かつ実現可能な補填制度体系を検討するためのパイロット・モデルを構築し,東アジア共通農業政策の具体的イメージを,コメに絞って例示的に示した. ある条件の下ではあるが,生産調整を解除し,補填基準米価を1俵12,000円程度に設定し,関税率は200%程度にすることで,コメ自給率も大きくは低下させずに,環境負荷も大きく増大することなく,日本の負担額が4,000億円程度に収まる共通農業政策の実現可能性が試算されたことは,今後に展望を与えるものである.本研究の提示したフレームワークと試算は,単純化されたものではあるが,実現可能な共通農業政策の一つの検討枠組みが具体的に示されたことに意義がある.このような考え方をベースにして,こうした域内国の共通財源の造成とその活用システムについて,より実践的な試算が示されることが望まれる.
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