研究概要 |
本研究では,グローバル化のもとで成長を続けるベトナム農業のうち,北部の茶と南部の天然ゴムを対象として農民経営の構造変化を明らかにし,さらにそれが地域の経済,及び資源利用や管理の在り方に及ぼしている影響について実証的に検討した。 本研究によって得られた知見は次のとおりである。1.北部中間の茶産地では,国内外の市場拡大を背景に,(1)伝統的かつ粗放的茶生産から次第に高収量・高品質茶への品種更新,潅水用ため池の整備,電化に伴う灌水作業や乾燥作業の省力化など,近代的な生産技術の導入を図る農民経営が増加しつつある。(2)これら新技術の普及は,生産規模の拡大を志向する経営とその他の経営の格差を増大させている。(3)規模拡大農家の中には茶収穫作業を中部沿岸地域等からの雇用労働力に依存する経営も増加している。(4)茶生産へのモノカルチュア化の進展は,一方で地域の山林管理の粗放化と後退を招いており,盗伐の多発など社会問題発生の原因となっていることも確認された。2.南部の天然ゴム産地は一般に,近年の国際的な天然ゴム需要の増加を背景に,経済的に活況を呈している。(1)同地域の天然ゴム生産経営は,小規模農民的経営,中規模雇用依存型経営,大規模資本家型経営,それに大規模国営プランテーションなど,多様な経営が併存する構造となっている。(2)中・大規模経営の労働組織は雇用依存型であり,収穫期間を通じて9か月以上の周年雇用が一般的である。(3)労働者は同地域の零細農家のほか,中部沿岸地域やメコンデルタ地域の出身者が多く,南東部全体では数万人から数十万人規模の農業労働市場を形成していると推察された。(4)好況なゴム経済を反映して,経営の規模の違いによって若干の差はみられるものの,収穫労働者の賃金水準は,北部の茶と比較して相対的に高く設定されている。このことによって,労働者世帯の生活水準は必ずしも貧困のレベルではなく,若干の経済的余裕すら生じている。(5)しかし,経営者と労働者の所得水準には大きな格差が生じている。(6)近年高い収益性を背景に,越僑や都市部住民による農地取得の意欲も強まっており,地価高騰が農民的経営の成長の阻害要因になりつつある。
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