研究概要 |
地下水排除工による地すべり対策が概成している静岡県内の結晶片岩地すべり地と地震時に崩壊が発生した宮城県内の火砕流堆積物台地を対象として排水量,水質等の観測を実施し,水理地質構造の検討を行った。結晶片岩地すべり地では孔内カメラと新たに開発した集水管部分採水器を使用して長さ約20mの集水管の位置毎の集水量と水質を調べた結果,地温探査で推定された水みちと交差している部分で電導度が低く,溶存酸素量が多い水が多く流入していることが明らかになった。降雨時には一時的な電導度低下が生じることから,水みちが地すべりブロック内外での水循環に大きな役割を果たしており,地下水排除工は水みち調査に基づいて設置すると効果が大きい。大雨時にはブロック上部の排除工で捕えきれなかった地下水を下流側の排除工で捕えていることがわかった。排出水の酸化還元電位は排水量と比例傾向があった。簡易な水質指標として大気暴露による試料のpH変化量も有効であった。区間遮断構造のボアホールを用いた深度別水頭観測により,高透水性の水みちは地盤内で排水機能を果たしていることが明らかになった。火砕流堆積物台地の地すべり地では地下水排除工設置前後の間隙水圧変化を実効降雨法で検証した。想定すべり面相当深度(6m)の水圧は対策前より1m程度低下し,降雨時の変動が小さくなった結果,2次元安定解析による安全率は対策前の1.12から1.23に向上した。一般的なオールストレーナ構造の観測井の孔内水位を用いると安全率は過大・過小の値になるので注意が必要である。地下水排除工による水頭低下は表層部分に及んでいないことから,農地において作土層の乾燥化を起こすことはないと考えられる。
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