研究概要 |
本研究では、新生子期並びに発育期の動物の脳機能が発達する"臨界期"に注目し、出生直後に母親から分離し母子間の接触が断たれる"Maternal Separation"ストレスが、発育期から成熟期の脳機能に及ぼす影響を行動学的、神経生化学的に解析し、以下の結果が得られた。 1.母子分離条件が成長期ラットの不安関連行動に及ぼす影響の解析 生後2日〜11日の間にわたって母ラットをホームケージから離し、隔離時間を30分、2時間、5時間と変化させた。3週齢で離乳後、4週齢で高架式十字迷路試験を、6週齢でオープンフィールド試験を行った。その結果、5時間の隔離では顕著な不安行動を示した。また、同腹の半数隔離よりも全新生子の隔離によって顕著な不安行動が認められたことから、新生子の不安状態は母ラットのストレス状態の程度に強く影響されることが示唆された。隔離処置時に牛ミルク由来LF(bLF,100mg/kg, ip)を子ラットに投与することによって、発育期の不安行動は減弱され、さらに、母ラットにbLFを投与した場合に最も強い改善効果が得られた。また、bLFは母子分離ストレスを負荷した母ラットの養育行動変化も軽減することが確認された。 2.ラット脳の神経伝達物質代謝ならびに視床下部・下垂体・副腎皮質系に及ぼす影響の解析 6週齢のラット脳から前頭皮質、海馬、偏桃核、梨状葉を切り出し、NE, E, DA,5-HT, MHPG, HVA, DOPAC,5-HIAAを測定した。その結果、全隔離処置によって脳の5-HTおよびNEの代謝回転は減少することが明らかとなった。また、bLFはFoot-shockによる血漿コルチコステロン上昇を早期に抑制したことから、負のフィードバック系を増強してストレス状態を早期に軽減するものと考えられた。 3.ラクトフェリンの腸管吸収効率の向上について 8週齢のラットを麻酔し、胸管にカニューレを留置して胸管リンパ液を採取できるように処置した。胃あるいは十二指腸内に粉末bLFまたは腸溶性bLFを投与して、リンパ液への取り込み動態を解析した。その結果、腸溶性bLFは胃消化に抵抗し、リンパ液への吸収を約20倍に向上させることが明らかとなった
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