研究概要 |
本研究では,ベンザイン誘導体及びその類縁体の一つである3,4-ピリダイン誘導体の10族遷移金属触媒を用いた[2+2+2]共環化反応における反応性の検討並びにアルキンとしての反応性の検討を行い,以下の成果を得た. (1)Pd触媒を用いたペンザイン誘導体の[2+2+2]共環化反応によるポドフィロトキシン類縁体の合成 研究代表者のグループでは既に,Pd触媒を用いたペンザイン誘導体の[2+2+2]環化反応を鍵工程としたアリールナフタレン類天然物,TaiwaninC及びEの全合成に成功し報告している.そこで,この反応の適用範囲の拡大を目指し,様々なジインとペンザイン誘導体の反応を検討し,1)ジインのアリール置換基上の官能基として電子求引基及び供与基のいずれも適用可能であること,2)アリールーアリール軸周りが立体的に最も混み合っている2,2',6,6'-テトラ置換ビアリール化合物の合成にも本法が適用可能であることが分かった. (2)Ni触媒を用いた3,4-ピリダイン誘導体の[2+2+2]共環化反応の開発 上記(1)のペンザイン誘導体とは異なり,含窒素類縁体であるピリダイン誘導体の[2+2+2]共環化反応はこれまで全く報告されていない.研究代表者のグループでは今回初めて,Ni触媒を用いると3,4-ピリダインの[2+2+2]共環化反応が進行し,イソキノリン誘導体が生成することを見出した.更に,様々な3,4-ピリダイン前駆体を合成し反応の検討を行ったところ,ピリジン核上に電子供与性置換基を持つ前駆体でも本反応が進行するのに対し,電子求引性置換基を持つ前駆体では副反応が起こり,著しい収率の低下が起こることを見出した.また,アルキンとしてアセチレンガスが利用可能であることが分かった. (3)ペンザイン誘導体とアリルシランとのカップリング反応の開発 酢酸アリル部とアリルシラン部を併せ持つ化合物は,Pd触媒存在下トリメチレンメタン様活性種へと変換されることが既にTrostらにより報告されている.トリメチレンメタンは求核性部位と求電子性部位を併せ持つため,ペンザインとの[3+2]型環化反応の進行が期待された.そこでPd触媒存在下,酢酸アリル部とアリルシラン部を併せ持つ化合物とベンザイン前駆体との反応を試みたが,反応は全く進行しなかった.一方,塩化アリル部とアリルシラン部を併せ持つ化合物との反応を試みたところ,アリルシラン部との反応のみが進行し立体選択的にZ-ビニルシランが生成した.塩化アリル部を持たない単純なアリルシラン誘導体でも本反応は進行し,またPd触媒を添加せずとも進行することが分かった.本反応は新たな立体選択的なビニルシラン誘導体の合成法へと展開が可能であると考えられ,今後は更に反応機構の解明と適用範囲の拡大を検討する予定である.
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