研究概要 |
糖部分にエポキシ構造を有するヌクレオシド誘導体に関する研究の過程で、4',5-エポキシドを有機アルミニウム試剤で開環する方法が4'-炭素鎖置換体の合成に極めて有効であることを知った。この方法をチミンヌクレオシドに適用して4'-エチニル体を合成したが、その糖部変換反応で副生する脱離成績体4'-エチニル-d4Tが母化合物である抗HIV薬スタブジン(d4T)よりも優れた活性を有することを見出した。 この4'-エチニル-d4Tは、グリコシル結合が化学的にも代謝的にも安定であり、正常細胞に対する毒性が低く、更に代謝的なリン酸化の効率が高いなど抗HIV薬として数々の優れた性質を有することが明らかになった。本化合物の安全性試験や将来の臨床試験を可能にするためには、大量合成が必要になる。前述の方法では、エポキシドの調製に問題を残していたので、大量合成が可能な別途の合成方法を開発することにした。 糖部4',5'位に不飽和結合を有するチミンヌクレオシドに対して四安息香酸鉛を反応させることにより、4'位に脱離基となるベンゾイルオキシ基を導入できた。この基質にエチニルアルミニウム試剤を反応させることにより、4'位における求核置換反応が可能になり、4'-エチニル-d4Tの大量合成に使用できる新規なルートを開発することに成功した。現在、ラットを用いる安全性試験が進行中であり、2008年には第1相臨床試験が計画されている。 一方、4'-エチニル-d4Tの構造活性相関に関する研究も進めた。糖部4'位の炭素置換基としては、シアノ基も有効ではあるが浩性の低下が認められた。メチル基やビニル基を導入すると活性が消失することから、活性の発現にはsp混成の炭素置換基が必要のようである。またエチニル基の末端にアルキル基を導入すると活性の低下が認められることから、4'位炭素置換基のサイズも活性に影響を与えることが示された。フラノース環を炭素環に変換した化合物も合成したが、全く活性を示さなかった。またフラノース環内の酸素原子を硫黄原子に置換した4'-チオ誘導体は,スタブジン(d4T)とほぼ同程度の活性を維持していた。
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