研究概要 |
申請者らは、毒力の異なるヒト・ウシ・トリ型の結核菌をヒト肺由来線維芽細胞株MRC-5,-9に感染させると、菌の毒力に応じて細胞傷害活性が認められることを見いだした(J.Interferon Cytokine Res., 2001, Antimicrob.Agents Chemother., 2002,2005))。本研究では、細胞傷害活性の機構を探索する上で、毒力の異なる菌株を用いて、その遺伝学的背景と生化学的、免疫的な違いについて検討を行った。BCG亜株と親株のウシ型結核菌Mycobacterium bovis、ヒト型結核菌Mycobacterium tuberculosisについて、NOストレスにおける感受性について検討した。加えて、宿主細胞に対する自然免疫の誘導活性に与える影響を検討するために、宿主細胞からのNO産生誘導能、サイトカイン・ケモカイン誘導能について検討した。M.tuberculosis、M.bovisはBCG亜株と比べて耐性であり、病原性と関連していた。NOストレス、酸化ストレス耐性に関与している(ahpC, noxR1, noxR3)について遺伝子配列に変異は認められなかったことから、他の遺伝子や因子が関与していることが示唆された。NO産生誘導能はPasture研究所からの分与時期が早い早期分与株に強い傾向が見られ、細胞壁構成成分のミコール酸の組成が関与していることが明らかとなった。A549からのinterleukin 6(IL-6)、IL-8の産生を検討したところIL-6の産生誘導能はTokyo株、Danish株で誘導がかからなかった。IL-8については初期分与株の方が高い傾向が見られた。このように、生化学的な活性とin vitroでの生物学的な特徴、さらには宿主細胞内での生存能に相関が認められなかった。 また、申請者らは、400以上の化合物の中から抗菌活性を示す新規化合物を得た。本化合物は難治性である非結核性抗酸菌や多剤耐性黄色ブドウ球菌に対しても抗菌活性を示した。また、25例の多剤耐性結核患者と21例の薬剤感受性結核患者の臨床分離株を用いて本化合物の抗菌活性を検討したところ、薬剤感受性、耐性菌に対して同値のMIC(数μg/ml)を得た(Bioorg Med Chem Lett., 2007)。本化合物は多剤耐性菌に対応する新規抗結核薬のリード化合物としてとして有望である。
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