研究概要 |
胆汁鬱滞型肝障害を誘発するlithocholic acid(LCA)をモデル化合物とし、障害を軽減する薬物(pregnenolone-16α-carbonitrile(PCN), probucol, quinacrine)を併用して肝障害の防御機序を解析した。LCAの代謝以外の新規の肝障害防御機序を明らかにするためLCAとPCNの併用の実験系ではマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現変動解析とRT-PCR法による遺伝子発現変動解析を実施して肝障害の新規防御機序の予測を行った。LCA処理群でトリグリセリド、遊離脂肪酸の肝内利用のシフトやリン脂質の代謝中間体生成酵素、リン脂質の膜移動に関与する遺伝子の顕著な発現上昇が認められた。脂肪酸についてはエネルギー産生に関わるβ酸化、TCAサイクルに関与する遺伝子の発現低下が認められ、肝/血漿間の脂質移行に関わる遺伝子の変動が認められた。上記の遺伝子発現変動はPCN併用群では認められなかった。これらの発現変動よりLCA誘発肝障害により脂質代謝に大きな変化が起こる可能性が考えられた。RT-PCR法による解析により、LCA処理群とPCN併用群の両方で、脂質合成酵素(acetyl CoA carboxylase, fatty acid elongase, stearoyl-CoA desaturase等)や、肝内脂質取り込みトランスポーター(Cd36)の発現上昇が認められた。これらの発現変動パターンはLCA誘発肝障害の防御因子であるSult2aやCyp3allと同様であり、これらの遺伝子の機能は肝内脂質レベルを上昇させることから、防御機序との関連で注目された。LCA処理群で肝内のリン脂質やトリグリセリドレベルが減少し、障害を軽減させるPCN, probucol, quinacrineの併用でこれらのレベルが回復することから、肝内脂質レベルの減少を抑制することが肝障害の防御に繋がる可能性が示された。特にphospholipase A2の阻害剤であるquinacrine併用により肝障害が軽減することからリン脂質レベルが肝障害と関連すると考えられた。LCA処置による胆汁中のリン脂質排泄速度の減少がpurobucol、PCN, quinacrine併用において回復することも上記の可能性を支持している。 本研究により胆汁中への脂質(リン脂質)の排泄を増加させる、あるいは肝内の脂質(リン脂質、トリグリセリド)レベルを上昇させることが胆汁鬱滞型肝障害の防御と関連することが示され、この機序が胆汁鬱滞型肝障害の改善薬に適用できる可能性が示された。
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