研究概要 |
本研究は患者の薬物代謝酵素の遺伝的な情報を得ることにより個々の患者の特に抗てんかん薬の薬物代謝能を予測し処方設計を支援すると共に,薬物相互作用による有害作用を未然に防止することを目的に企図したものである。平成17年度はラットにおけるCYP3A13とCYP2C11のmRNA発現量を測定するためのプライマーを設計し,そのプライマーを用いたReal-time PCR法がCYP3A13・2C11 mRNA発現量の定量に適していることを確認することができた。平成18年度はカルバマゼピンにより誘導されたラットの血液中・肝臓中における薬物代謝酵素のmRNA発現量・蛋白発現量の相関性の検討を行い,バイオマーカーとしての有用性を検討した。すなわち,カルバマゼピン50mg/kgを1日1回2週間連続投与後,最終投与の3,6,12,24時間後のCYP3A13とCYP2C11のmRNAおよび蛋白発現量を測定した。その結果,CYP3A13とCYP2C11のmRNAおよび蛋白発現量には経時的変化が認められ,mRNAおよび蛋白発現量では異なるプロファイルを示した。血液中CYP2C11 mRNAはほとんどのサンプルにおいて検出できず,血液中CYP2C11 mRNA発現量は薬物代謝能評価のための非侵襲性バイオマーカーとして適切ではないことが明らかとなった。また,CYP3A13発現量の定量的評価において,肝臓中や血液中の発現量の間に相関性が得られる最適なサンプル採取時間は最終投与後3時間であると考えられた。薬物代謝能の指標としてカルバマゼピンに対するカルバマゼピン-epoxideのAUC_<0→8>比は、投与量(25,50,100mg/kg)依存的に上昇が認められた。しかしながら、薬物代謝能とCYP3A13 mRNA・タンパク発現量の相関性は投与量により影響を受けることが判明した。 バイオマーカーとしての遺伝子情報と薬物代謝能の相関性に関する本研究成果は、抗てんかん薬におけるテーラーメイド医療を実施していく上での基盤となるものであり、個人に適した投薬設計を行うための重要な指針になると思われる。
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