研究概要 |
本研究では,発生初期の脊髄背側部が脊髄神経節細胞(DRG)の軸索を誘引することに着目し,その分子メカニズムの解明を目指した.組織培養系を用いて脊髄背側部由来の軸索誘引作用の特性を調べたところ,この誘引作用は発生初期のDRG軸索には働くが,発生後期のDRG軸索には働かず,この作用を仲介する受容体が発生初期のDRG軸索に強く発現していることが示唆された.この誘引作用は網膜神経節細胞の軸索に対しても働かないため,この作用を仲介する受容体は特定の神経軸索に時期特異的に発現することが予想される.また,これまでの研究からlaminin-1のペプチドYIGSRがこの軸索誘引作用を増強することがわかっていたが,その効果を仲介する受容体は不明であった.機能阻害抗体を用いてこの効果を仲介する受容体を検索したところ,YIGSR受容体の一つである67-kDa laminin receptor(67LR)が仲介することが明らかとなった.次に,脊髄背側部由来の軸索誘引因子の実体解明を目指して,脊髄背側部に発現する既知分子(netrin-1およびWnt3a)の軸索誘引効果を検討した.しかしながら,いずれの分子も誘引効果を有しておらず,DRG軸索に対する誘引因子ではないことが判明した.さらに,新規軸索誘引因子を求めて,レーザーマイクロダイセクション法で切り出した脊髄背側片由来のcDNAを用いてマイクロアレイを行い,脊髄背側部に特異的に発現する候補遺伝子を得ることに成功した.今後は得られた候補遺伝子のmRNAの発現をin situ hybridization法で確かめるとともに,その遺伝子産物の軸索誘引活性を解析し,脊髄背側部由来の軸索誘引因子の全容解明を目指したい.
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