研究概要 |
本研究課題では,細胞膜PIP_2(ホスファチジルイノシトール-4,5-2リン酸)による心筋緩徐活性型遅延整流性K^+チャネル(I_<Ks>)の調節の分子基盤を検討する目的で,モルモット心房筋細胞やI_<Ks>の発現をコードするKCNQ1,KCNE1遺伝子を導入した培養細胞にパッチクランプ法を適用して実験を行い,以下の結果を得た. 1.α_1-受容体刺激剤であるphenylephrine(30μM)によるI_<Ks>の増大作用はプロテインキナーゼC(PKC)阻害薬であるbisindolylmaleimide I(BIS-I,200nM)によって約60%抑制され,さらに細胞内にPIP_2(100μM)を負荷することによりほぼ完全に抑制された. 2.ATP(30μM)によるP2Y-受容体刺激もI_<Ks>を増大させ,その反応はBIS-Iによってはほとんど影響を受けなかったが,細胞内にPIP_2を負荷することによりほぼ完全に消失した. 3.モルモット心房筋細胞を70%低浸透圧溶液(約206mOsm)で灌流するとI_<Ks>は著明に増大したが,パッチ電極を介して抗PIP2抗体を負荷した条件下では低浸透圧溶液によるI_<Ks>の増加率はコントロール時の約40%に減少した. 4.KCNQ1,KCNE1と共にGq-PLC連関型受容体であるM_1-ムスカリン性受容体を導入したCOS7細胞において,低濃度(1および10nM)のアセチルコリン投与によりKCNQ1/KCNE1電流は増加した. これらの実験結果は,Gq-PLC連関型受容体刺激や細胞膜伸展によるI_<Ks>の増大反応に,細胞膜PIP_2の減少が関わっていることを示しており,細胞膜PIP_2はI_<Ks>の調節を介して心筋電気活動(特に活動電位再分極過程)に影響を与えている可能性が示唆された.また,I_<Ks>の調節における細胞膜PIP_2の定量的役割は受容体間(α_1-受容体やP2Y-受容体)や細胞刺激の種類によって異なっていると考えられた.
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