研究概要 |
研究代表者の所属するグループは,これまでに,心筋梗塞モデル動物を用いた実験で迷走神経刺激がその生命予後を劇的に改善することを見出した。本研究は,心臓副交感神経である迷走神経の電気刺激により心筋梗塞急性期に誘発される致死性不整脈の発生頻度が劇的に抑えられることに着目し実験を開始し,以下の研究成果を得た。 ラット左冠状動脈起始部の結紮により急性心筋虚血動物を作製し,迷走神経刺激群,偽刺激群,コントロール群に分け,不整脈の発生頻度と膜輸送タンパク質の発現を調べた。その結果,急性心筋虚血時に誘発される致死性不整脈の発生が迷走神経刺激により抑制されること,迷走神経刺激の有無とギャップ結合タンパク質の一つであるコネキシン43(Cx43)の発現量が連動していること,を明らかにした。迷走神経刺激の抗不整脈作用はアトロピンで阻害されることから,一連の情報伝達はアセチルコリン(ACh)のムスカリニック受容体を介することが示唆された。 AChにより活性化される情報伝達系を明らかにするために心筋細胞初代培養系を用いて解析した。AChの培養上清への添加により細胞生存シグナルの一つと考えられているAkt (protein kinase B)のリン酸化(P-Akt)が誘導されること,低酸素条件負荷によりCx43の発現量は著しく低下したがAChの存在下ではCx43の分解系が抑制されることによりその発現量が維持されること,を明らかにした。AChにより心筋細胞の虚血耐性が増強すると考えられる。また,AChの投与により心筋細胞から一酸化窒素が産生され血管内皮成長因子(VEGF)が誘導されることから,AChにより血管新生が誘導される可能性が示唆された。 一連の研究成果により,迷走神経刺激およびAChにより,心筋細胞の電気的な連絡が保持されること,細胞生存シグナルが増強されること,血管新生が促進されること,が判明した。
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