心筋の機能に重要な働きをしている筋小胞体カルシウムポンプ(SERCA)の制御因子を通して心不全の病態、さらに治療に結びつく研究を、ラットアダルト心筋細胞を単離してその機能変化を観察することにより検討した。その中で、喫煙や糖尿病で血中に増加するといわれるアルデヒドであるアクロレインが、心筋細胞機能を低下させ、細胞死を起こすことを見出した。このアクロレインは、タンパク質のシステイン、リジン、ヒスチジン残基と結合しそのタンパク質の機能を変化させ、細胞機能に影響すると考えられている。また、血管内皮細胞を用いた実験でも、アクロレインは、細胞死(アポトーシス)を起こし、動脈硬化との関連もあることが判明した。我々はまた、SERCAと同様に、カルシウムシグナルタンパク質であるリアノジンレセプターの制御因子として、プレセナリン2を見出し、カルシウム依存性にリアノジンレセプターと結合し、その機能をコントロールすることにより心機能に関与していることを証明した。さらに、重要なSERCAの制御因子であるサルコリピンに関しては、現在トロント大学との共同研究で、解析中であるが、心筋型カルシウムポンプ(SERCA2a)の内因性制御因子であるホスホランバンが、O型糖鎖の一つであるO-GlcNAcによって修飾され、SERCAの阻害活性を変化させることを見出し、糖尿病性心筋症の病態と関わりがあることが示唆された。以上が成果であるが、今後もこのO型糖鎖による制御機構を中心に心機能の制御、心不全の病態解明に向けた研究を遂行する予定である。
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