研究概要 |
哺乳類精巣および脳に特異的に発現している硫酸化糖脂質セミノリピドを欠失している遺伝子ノックアウトマウス(CGT KOおよびCST KO)では,精子形成が第一減数分裂を完了する前に停止していることが明らかとなっている。本研究では男性不妊症の原因の9割を占める精子形成不全のメカニズムを解明することを目的として,「セミノリピドが欠損するとなぜ精子形成が停止するのか?」という命題の解明を目指している。 SM4gの生合成が始まる前後(7,10,13,16日齢)のCGT KOマウス精巣タンパク質の二次元電気泳動像を,同日齢の野生型と比較したところ,野生型と比べて優位に発現が増加しているスポットを見出した。MALDI-TOFMSによるPMF分析の結果,vimentinと同定された。次にリン酸化タンパク質のみの特異的染色法により比較したところ,KOマウスで明らかに増加あるいは減少しているスポットが検出された。精子形成の進行には,精細胞と支持細胞であるセルトリ細胞との細胞間相互作用が重要な役割を担っており,vimentinはデスモソームの構成タンパク質として,セルトリ細胞と精細胞の細胞間結合に関与していることが知られている。また,細胞間結合の動態は種々のシグナル伝達系により支配されていると考えられている。KOマウス精巣では,vimentinに加えて複数のリン酸化タンパク質の発現に変化がみとめられたことから,セミノリピドは,セルトリ細胞、精細胞間の細胞間結合や,それをコントロールするシグナル伝達機構に関わっている可能性が示唆された。細胞膜には,膜脂質やシグナル伝達分子が集積して形成されるマイクロドメイン(ラフト)が存在することが知られている。今後は,セミノリピドの欠失がマイクロドメインや細胞間結合の動態にどのように関わっているか,その分子メカニズムを解明し,糖脂質および関連分子を標的とする男性不妊症の治療法や治療薬開発という,新たな分野への糸口としていきたい。
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