研究概要 |
1)非小細胞型の高悪性度胃神経内分泌(neuroendocrine, NE)癌の組織学的診断基準の樹立を目指し、通常の胃腺癌と診断された2,835症例のH・E染色標本を見直した。NE腫瘍の共通な組織学的特徴並びに細胞学的特徴に基づいて、large cell neur-oendocrine carcinoma (LCNEC)を疑う症例をputative-LCNECとして199症例を抽出した。免疫染色ではそのうち42症例と44症例が50〜100%と1%〜49%の腫瘍細胞にchromogranin A (CGA)あるいはsynaptophysin (SYN)陽性であり、それぞれLCNECとadeno-carcinoma with NE differentiation(ACHED)と診断された。LCNECは胃癌全体の約1.5%を占め、H・E染色標本にて認識可能な一つのpathological entityであることを証明し、LCNECの組織学的診断基準を提唱した(American Journal of Surgical Pathology, 2006)。 2)42症例のLCNECとランダムにpick-upした307症例の通常型腺癌(adenocarcinoma、AC)の予後分析を行った。AC患者より、LCNEC患者の全体生存期間(overall survival)が遙かに短いことを証明した(p<0.0001)。病期別に基づいた予後分析でも、AC患者よりLCNEC患者の生存期間が有意に短いであった。更に、20%以上の腫瘍細胞にCGAあるいはSYNが陽性である症例をLCNECとすると、前記199例のputative LCNECのうち66例と20例がそれぞれLCNECとACHEDと診断された。予後分析では、このように診断されたLCNEC例の全体生存期間もAC例より遙かに短いことを証明した(p<0.0001)。AC患者より、ACNED患者の生存期間が短い傾向を認めたが、有意差は認められなかった(p=0.0568)。これらの結果により、腫瘍細胞NE分化の有無が胃癌の生物学的悪性度に強く関係し、患者予後の面から見ても胃LCNECは独立した一つの臨床的なentityとして扱われるべきであると考えられた。 3)42症例のLCNECのホルモン発現プロファイルを免疫染色にて検討した。Gastrin, serotonin, somatostatin, gastrin-releasing peptide, calcitoninとpancreatic polypeptideの陽性率は、それぞれ29%,24%,38%,5%,21%と14%であり、胃LCNECはeutopicホルモンとectopicホルモン何れも産生することを証明した。更に、胃LCNECのホルモン発現プロファイルと肺LCNECのホルモン発現プロファイルが異なることが示唆された。 4)42症例の胃LCNECと20例のACに於けるhASH1とHes1の発現を調べた。全てのACにhASH1陰性である一方、28(63,6%)症例のLCNECにはhASH1の発現を認め、hASh1が胃癌細胞のNE分化の決定遺伝子であることが示唆された。なお、ACとLCNECは何れにもHes1の発現を認め、hASH1発現の抑制に他の因子・メカニズムが存在していることが示唆された。また、胃LCNECに於いて、hASH1発現と患者予後との関係は認められなかった。 5)hASH1とHes1の発現ベクターを作成し、NE分化を有しない胃腺癌細胞株と胃NE癌細胞株に導入した。現在、in vitroのhASH1発現とHes1発現との関係及びhASH1・Hes1発現と腫瘍NE phenotypeとの関係は解析中である。
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