研究概要 |
平成17年度の検討では、 1.ヒト大腸癌パラフィン固定組織標本96例を用い、免疫組織化学染色を行った。各蛋白の陽性率は、Ang-1(86.5%),Ang-2(92.7%),Ang-4(79.2%),Tie-1(90.6%),Tie-2(95.8%)だった。各染色の陽性率と組織型(分化度)、腫瘍浸達度、脈管浸潤等との関連が認められた(p<0.05)。2.ヒト大腸癌培養細胞(Colo201,Colo320DM,Lovo,SW837,DLD-1)を用いて蛋白質とRNAを抽出し、Western blot法とRT-PCR法にてAng-1,2,4とTie-1,2の発現を検討した。各蛋白質とRNAの発現が認められ、細胞の種類により発現量の違いが認められた。3.ヒト大腸癌手術組織を用いてtotal RNAを抽出し、RT-PCR法にてAng-1,2,4とTie-1,2の発現を検討した。各RNAの発現が認められ、個体により発現量の違いが認められた。 平成18年度は、 1.アンギオポエチン(Ang)-1,-2を細胞培養液中に投与し、細胞数の増加を検討した。用いたヒト大腸癌培養細胞の種類により、細胞増殖に与える効果に違いが認められた。また、一部の培養細胞では細胞形態の変化が認められた。2.Modified Boyden's chamberを用いてInvasion assayを行い、浸潤能への影響を検討した。培養細胞の浸潤の促進効果は、細胞種類により異なる結果が得られた。3.ヒト大腸癌培養細胞にAng-1,2を投与し、Western blotにて、細胞内シグナリング活性の検討を行った。MAPkinase系、PI3kinase系等の活性化が認められた。4.アンギオポエチンによる増殖・分化・浸潤への効果が、Tie受容体チロシンキナーゼが活性化する細胞内シグナル伝達系を特定するため、MAPkinase系、PI3kinase系等に特異的な阻害剤を投与し、アンギオポエチンの効果抑制作用を検討したが、研究は現在進行中である。 以上のように、ヒト大腸癌において、アンギオポエチン(Ang)-1,2,4とTie-1,2受容体の発現と臨床病理学的指標との相関関係が認められ、アンギオポエチン投与による細胞増殖・分化・浸潤能が促進されることが本実験で明らかとなった。研究は進行中で最終的な結果はまとめられていないが、大腸癌におけるアンギオポエチン系の新たな作用が解明され、今後の大腸癌治療に役立つ可能性が示唆された。
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