研究概要 |
本研究では、トリパノソーマ類のピリミジン生合成経路の特異性について、進化学的見地から解析した。最初に、シャーガス病の病原体Trpyanosoma cruziのTulahuen株が本経路第4酵素dihydroorotate dehydrogenase(DHOD)遺伝子を3コピー持つ点に着目し、遺伝子多型の有無と生理機能との関連について解析した。その結果、DHOD遺伝子のORF(942塩基対)中に、26箇所という高頻度の塩基置換が認められた。酵素学的性状はDHOD間で極めて似通っており、DHOD遺伝子の塩基置換は酵素性状に影響を与えないことが明らかとなった(Sariego, et al., Parasitol. Int, 2006)。この成果は、DHODを標的とした治療薬開発に重要な知見を与えると考える。次に、同経路の第5酵素orotate phosphoribosyltransferase(OPRT)と第6酵素orotidine-5'-monophosphate decarboxylase(OMPDC)の分子進化について考察した。トリパノソーマ類では、両酵素はOMPDC-OPRTの順に融合した酵素としてグリコソームに局在する一方、動物や植物では両酵素は逆順のOPRT-OMPDC融合として存在する。本研究から、OMPDC-OPRT融合は自由生活性の祖先生物で獲得したこと、真核生物の異なる生物群(ストラメノパイルに属する珪藻と卵菌)で独立にOMPDC-OPRT融合が生じたことが強く示唆された(Makiuchi, et al., Gene, in press)。これは、同じ組み合わせかつ同じ順序の遺伝子融合が独立に起こりうることを示す初めての研究である。 さらに、T.cruziの寄生適応機構として新規P-type ArPaseの同定を行ない、これが細胞内からのNa^+(またはK^+)の排出に関わる酵素であり、細胞外寄生(高Na^+濃度)と細胞内寄生(高K^+濃度)の両者においてイオン恒常性の維持に重要な役割を果す可能性を示した(Iizumi, et al., BBA 2006)。
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