研究概要 |
セレウス菌Bacillus cereusは食中毒の原因菌となる病原細菌である。セレウス菌による食中毒は臨床的に嘔吐型と下痢型に分類される。我々は嘔吐型食中毒事例より分離されたセレウス菌の全ゲノム解析から嘔吐毒素であるセレウリドの合成系が染色体ではなくプラスミド上にコードされていることを見いだした。今回の研究ではこのような嘔吐型セレウス菌のプラスミドの解析を行うと共に、嘔吐型セレウス菌の遺伝学的背景を探求した。嘔吐型セレウス菌は例外なく巨大プラスミドを保持しており、また、それらのプラスミド上にセレウリド合成系が存在していた。一方、非嘔吐型セレウス菌においてもセレウリド合成系はないものの、類似した構造をもつ巨大プラスミドを持つものもあった。そこで、視点を変えて嘔吐型セレウス菌がセレウスグループ細菌のなかでどのような集団なのか調べる目的で、染色体上にコードされる7個の遺伝子の塩基配列をもとに解析するmultilocus sequence typingを行った。検討した25株の嘔吐型セレウス菌は4つのsequence type (ST)に分類された(ST26,165,144,164)。このうちST26とST165はすでに報告のあったものであるが、今回我々が見いだしたST164はいままでに報告の無いものであった。さらにこのクラスターは炭疽菌にもっとも近いものであった。セレウス菌と炭疽菌は遺伝学的に近縁菌と考えられていたが、セレウス菌でも嘔吐型に限れば非常にクローナルな集団であり、この集団はごく最近の出現であることが推測される。
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