研究概要 |
本研究はシグナル伝達による潜伏感染Epstein-Barr(EB)ウイルスの複製の制御機構を解明し、そのライフサイクルにおける意義を明らかにするとしている。EBウイルスはヒトヘルペスウイルスに属し、伝染性単核症や慢性活動性EBV感染症の原因であるとともに、バーキットリンパ腫、上咽頭がんとの関連がありDNA腫瘍ウイルスでもある。これらの癌は日本においてはその症例が少ないものの予後が非常に悪いことが知られている。さらに自己免疫疾患との関連も指摘されている。一方、健常人においてEBウイルスは不顕性感染した後に宿主に深く潜伏する。健常人におけるEBウイルスのライフサイクルは粘膜上皮細胞と免疫B細胞の分化に密接に関連していることが知られている。そこで、EBウイルスが関連する疾患ではウイルスは正常のライフサイクルから逸脱していると考えると、その原因を追究することが疾患の理解と治療法の開発に重要になる。我々はこの問題に対してシグナル伝達によるウイルス複製の制御の観点から研究を開始した。これまでに、ウイルス複製起点oriPがp38MAPKを介して抑制的に制御されていることを発見している。そこで、EBV感染細胞でのEBNA1のリン酸化アミノ酸の同定を行った。その結果、MAPKによってリン酸化を受ける可能性のあるSer383とSer393が強くリン酸化されていることが判明した。また、両アミノ酸の間に位置するSer386,Ser385,Ser388,Ser389も弱くリン酸化されていた。強くリン酸化されるSer383とSer393をアラニンに置換して、その複製への影響を検討したところ、約50%まで活性が減少した。この結果は、両アミノ酸のリン酸化は複製に影響を及ぼすが、p38MAPKを介して行われる複製の抑制的制御には関連していないことを示していた。おそらく、p38MAPKは宿主複製因子を直接の標的としてoriPの複製活性を制御していると考えられる。また、これらのリン酸化は転写制御にも関連していることが判明した。EBNA1のリン酸化はEBVのCpプロモーター活性を約2倍に促進するが、一方、EBNA1によるQpプロモーターの抑制には影響が無かった。これらの結果から、EBNA1のリン酸化が潜伏感染型の移行に関連していることが示唆された。
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