研究概要 |
多数の蛋白質の発現様態を検索できる2次元電気泳動法を用いて,法医剖検例の心筋について構造・細胞骨格蛋白質としてデスミンとトロポニンTを,合成と分解経路に関与する蛋白質としてゲルゾリンとα-平滑筋アクチン(α-SMA),細胞防御機構に関係する蛋白質としてMnスーパーオキシジスムターゼ(MnSOD),代謝経路に関連する蛋白質としてα-エノラーゼを選び,これらの構造異常や発現様態変化の有無を検索した. その結果,エノラーゼ/チューブリン(E/T)値が2以上を示し,トロポニンT,ゲルゾリン,α-SMA及びMnSODのいずれにおいても変化が認められた症例は,心臓突然死の39歳男性1例であった.次に,E/T値が2以上で,トロポニンTとゲルゾリンの2つに変化が認められた症例は心臓突然死の26歳男性1例,トロポニンTとMnSODの2つに変化が認められた症例は,急性アルコール中毒の62歳男性の1例,ゲルゾリンとMnSODの2つに変化が認められた症例は,CO中毒の28歳男性1例であった. また,E/T値が2以下ではあるが,トロポニンTとゲルゾリンの2つに変化が認められた症例は,頭部銃創の27歳男性の1例,ゲルゾリンとα-SMAの2つに変化が認められた症例は,死因不詳の1歳1ヶ月男児,失血死の29歳女性,肝破裂の60歳女性の3例,α-SMAとMnSODの2つに変化が認められた症例は,溺死の48歳男性の1例であった. 以上のように,α-エノラーゼの増加に加えて2つ以上の蛋白質に変化が認められた症例の中に,法医実務において死因の診断に苦慮する内因性の突然死で最も多い心臓突然死2症例が含まれていることは,この研究の有用性を示唆しているものと考える.
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