研究概要 |
20分間で全血液量の25%を出血させるラットの出血性ショックモデルを用い,ショック時の心臓障害の解明を試みた。 虚血などでサイトカインの産生を促す細胞内シグナルであるp38MAPK(Mitogen-activated protein kinase)活性化阻害剤であるFRI67653投与群と非投与群において,出血1,3および5時間後に心臓を採取し,p38MAPKの発現,炎症性サイトカインであるTNF-αとIL-1βの発現を観察した。また,各時間において,血清中のCPK-MBで心臓の器質的傷害を,心室性不整脈,心拍数や血圧の変化で機能的障害を解析し,心臓におけるp38MAPK活性とそれに続く炎症反応の発現や臓器障害との関係を検討した。 FR167653非投与群の平均血圧は出血前102±6mmHgから出血後41±3mmHgへと低下したが,徐々に昇圧し,出血60分後では一旦出血前に回復し,以後は継続的に低下した。心拍数も同様の経過を辿った。また,出血3時間後から心室性不整脈が出現し,その頻度は経時的に増加した。心臓中のp38MAPK活性は出血1時間後に,TNF-αmRNAは出血1時間後に,IL-1βmRNAは3時間後にいずれも最も強く上昇した。心臓血中のサイトカイン濃度も同様の経過であった。組織学的には,出血5時間後に血管腔内に好中球の集簇,心筋の好酸性化および間質の浮腫などが認められ,さらに心筋傷害によるCPK-MBの上昇を認めた。しかしFR167653投与群には,出血による上記の変化は認められなかった。このことから,出血による血流減少というストレスが心臓内でp38MAPKを活性化し,炎症性サイトカインの発現を促して好中球の活性化を引き起こし,最終的には炎症反応を介した器質的傷害が発生して,不整脈出現などの機能的障害が生じることが明らかとなった。
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