研究概要 |
近年,複数の異なる施設が潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;以下UC)組織における遺伝子発現をマイクロアレイ解析した結果,REGファミリー遺伝子が最も強発現する遺伝子であることを報告している.実際我々の検討でも,REG Iα遺伝子発現は正常大腸粘膜に比べUC粘膜で著しく増強し,その発現強度はUCの炎症度程度と相関していた.さらにREG Iα遺伝子発現は,UCを母地として発生した大腸癌のみならずその前癌病変にも強発現し,発癌の高危険群である長期罹患患者で強発現した.REG Iα遺伝子発現のメカニズムに関しては,REG Iα遺伝子プロモーターの-142〜-134にIL-6反応責任領域を認め,IL-6/STAT3シグナルがREG Iα遺伝子発現に重要な役割を果たしていることを明らかにした.また,REG Iα蛋白の機能に関しては,REG Iα蛋白が癌細胞に対して細胞増殖能のみならず抗アポトーシス作用を示すことを明らかにし,その抗アポトーシス作用はAktシグナルを介したBcl-2とBcl-xLの発現増強によることを明らかにした.これらのことから,REG Iα蛋白がSTAT3シグナルの下流標的分子としてSTAT3シグナルの抗アポトーシス作用を媒介している可能性が示唆された.一方,REG Iαと同様にREG IV蛋白についても検討したところ,REG IV蛋白はREG Iαと同じく大腸癌細胞に対して細胞増殖作用と抗アポトーシス作用を示し,またUC粘膜,前癌病変,UC随伴大腸癌で強発現したが,その発現はサイトカインではなく,他の増殖因子刺激に影響されていることが明らかになった.以上のことより,REGファミリー蛋白の細胞増殖および抗アポトーシス効果がUCからの発癌に重要な役割を果たすことが明らかになり,さらに,REGファミリー蛋白発現がUC患者から発癌の危険度が高い患者を選別するのに有効なマーカーとなる可能性が示唆された.
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