研究概要 |
原発性胆汁性肝硬変(PBC)は、慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)を病理学的特徴とし、中年女性に好発する原因不明の肝疾患であるが、末期には肝不全、黄疸を合併し、肝移植以外に救命方法がない難病である。PBC患者の90%以上の症例に抗ミトコンドリア抗体(AMA)(標的抗原:PDC-E2,PDC-E3BP,PDC-E1α,OGDC-E2,BCOADC-E2)が出現するが、30-50%には抗核抗体(ANA)(標的抗原:gp210,p62,lamin B receptor,sp100,PML, centromere B)が出現する。しかし、PBCで出現するこれらの自己抗体に関してのsystematicなcohort studyはなく、その臨床的意義に関しては明らかではなかった。我々は、国立病院機構肝疾患共同研究グループ(NHOSLJ)に登録されている肝生検で確定診断されたPBC276症例(男35,女241、年齢30-83,中央値58歳、観察期間1-292M,中央値60.5M、初回肝生検時Scheuer‘s stage 1,2:217例、stage3,4:59例)について、血清中のAMA(MIT3)とANA(gp210、sp100、centromere、chromatin)を経時的に測定し、これらの自己抗体とPBCの進行、転帰、病理因子との関係を解析した。肝不全あるいは肝移植への進行の危険因子として、診断時のgp210抗体陽性(hazard ratio 6.742,95%CI:2.408,18.877)、病期stage3,4(hazard ratio 4.285,95%CI:1.682,10.913)男性(hazard ratio 3.266,95%CI:1.321,8.076)が同定された。Stage1,2から黄疸(T.bil.>2mg/dl)/肝移植への進行(肝不全型進行)の危険因子として抗gp210抗体陽性(odds ratio 33.777,95%CI:5.930,636.745)、食道静脈瘤、腹水、HCC(T.bil.<2mg/dl)への進行(門脈圧亢進症型進行)の危険因子として抗セントロメア抗体陽性(odds ratio 4.202,95%CI:1.307,14.763)が同定された。病理因子に関しては、抗gp210抗体陽性はinterface hepatitis (odds ratio 4.38,95%CI:1.6,12.76)、lobular inflammation (odds ratio 4.05,95%CI:1.30,13.50)に対する最も強い危険因子であり、抗セントロメア抗体陽性はductular reaction (odds ratio 5.70,95%CI:1.97,17.55)に対する最も強い危険因子であった。以上から、抗gp210抗体と抗セントロメア抗体はPBC進行の異なった危険因子であり、PBCは進行パターンにより、肝不全型進行(gp210 type)と門脈圧亢進症型進行(centromere type)に分類できることが示唆された。PBC患者をこれら2種類の病型に分類することにより、それぞれの病型に特徴的なHLA polymorphism、サイトカインや薬物代謝に関する遺伝子のSNPsが存在することが判明しつつあり、今後は、これらのPBCの進行因子を同定することにより、より正確な予後予測に基づく分子標的治療が可能となるものと期待される。
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