研究概要 |
【背景・目的】近年,慢性腎不全(CRF)患者の高次脳機能障害に対する遺伝子組換えヒトエリスロポエチン(rHuEPO)の脳保護作用が報告されている.その機序については,詳細な検討は行われておらず未だ不明である.尿毒症における脳障害の一因は酸化ストレスを介することが指摘され,尿毒症における酸化ストレスの機序にNADPH oxidase(NOX)の関与が指摘されている.一方,最近,虚血性脳障害において神経細胞脱落後に増加したアストロサイト(アストロサイトーシス)が,エリスロポエチン(EPO)産生を介して脳保護に働いている可能性が示唆されている.以上の背景を踏まえ,今回われわれは,尿毒症性脳障害における酸化ストレスの関与とEPOの脳保護効果,およびアストロサイトーシスの意義に着目し,以下の実験を行った. 【方法】6週齢の雄性ラットを偽手術群(Sham群),5/6腎摘群(Nx群),5/6腎摘にrHuEPOを投与した群(Nx+EPO群)に割付し,8週後の脳における酸化ストレス障害について,アクロレイン(過酸化脂質のマーカー)と8オキソグアニン(酸化DNA損傷のマーカー)の蓄積を免疫組織染色(IHC)で検討した,酸化ストレスの発生機序に関しては,NOXの関与について細胞質因子p67^<phox>の発現量をIHC,Western blot(WB)で検討した.アストロサイトーシスに関しては,グリア線維性酸性タンパク質(GFAP:活性化アストロサイトのマーカー)の発現をIHC法で検討した.また,尿毒症物質p-cresolによる神経細胞傷害について培養実験を行い,rHuEPO投与および神経芽細胞・アストロサイトの共培養実験を行い,EPOとアストロサイトの神経保護作用について検討した. 【結果】Nx群では,脳海馬において,アクロレイン,8オキソグアニン,p67^<phox>,GFAPのIHCにおける染色性亢進,またWBにおいて,細胞膜分画中のp67^<phox>蛋白の増加(NOXの活性化)が認められたが,Sham群,Nx+EPO群では認められなかった.P-cresolによる神経細胞障害において,神経芽細胞と共培養した細胞よりアストロサイトと共培養した細胞のほうが細胞生存率は高かった. 【考察・結論】今回の実験で以下のことが示唆された.1)尿毒症性脳障害は,脳海馬の神経細胞においてNOXを介した酸化ストレス障害に関連して起こる.2)EPOはNOX抑制による抗酸化作用により尿毒症毒素の神経細胞毒性を軽減する.3)酸化ストレス障害に反応してアストロサイトが増加し,EPO産生を介して脳保護に作用している可能性が考えられる.
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