研究概要 |
孤発性筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態に編集型GluR2の減少が関与していることが明らかにされている。GluR2のQ/R部位のRNA編集は主にadenosine deaminases acting on RNA(ADAR2)によって行われる。ヒトADAR2遺伝子には4つのalternative splicing isoformが知られているが、その発現および機能に関しては未だ不明な点が多い。ADAR2遺伝子導入はGluR2サブユニットの編集率を促進し、AMPA受容体をCa非透過型にして運動神経細胞に保護的に作用することが予測されるが、その検討は未だなされていない。以上の背景から、次の項目を研究目的とした。 (1)ヒトADAR2遺伝子の発現および機能を解明する。(2)GluR2のQ/R部位のRNA編集率を上昇する薬剤のスクリーニング法を確立する。 ADAR2遺伝子の4つのalternative splicing isoformの過剰発現 ADAR2遺伝子のC末のalternative splicing isoformのうち2L-2,2L-3,2Sをプラスミドレベルで培養細胞(COS7)へLipofectamineを用いて過剰発現できることを確認。これらのalternative splicing isoform(2L-1,2L-2,2L-3,2S)のうち2L-2はADAR2活性が高く、2L-3はその活性が低い。ADAR2活性を上昇させることのできる、遺伝子の導入はALSの治療に応用可能と考えられる。現在、より高率に発現させるためにヒトADAR2遺伝子をアデノウイルスベクターに組み込み中である。 GluR2のQ/R部位のRNA編集率を上昇する薬剤のスクリーニング法の確立 1.培養細胞のGluR2のQ/R部位のRNA編集率測定:培養細胞からRNAを抽出し、RT-PCRによってcDNAを作成。GluR2 Q/R siteを含む277bpをnested PCRによって増幅。PCR productを制限酵素BbvIで処理し、泳動パタンにより編集率を算出した。培養細胞の中でSH-SY5Y細胞のGluR2のQ/R部位のRNA編集率が33-66%であり、薬剤スクリーニングに使用可能と考えられた。そのため、薬剤スクリーニングにはSH-SY5Y細胞を用いた。2.SH-SY5Y細胞を用いた薬剤スクリーニング:上記で確立したGluR2のQ/R部位のRNA編集率測定法を用いて興奮性アミノ酸、抗うつ薬のスクリーニングを行った。SH-SY5Y細胞に薬剤を負荷し、GluR2のQ/RサイトRNA編集率を測定した。スクリーニングした薬剤の中で、2種の薬剤で、10μM以下のオーダーでGlu2 Q/RサイトのRNA編集率が有意に上昇した。これらの薬剤はALSの神経細胞死に抑制的に働くと考えられ、ALSの特異的治療に応用できる可能性が示唆された。
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