研究概要 |
広範な大脳白質病変を形成するLeukoencephalopathy with vanishing white matterは、蛋白合成に重要な調節因子であるEIF2Bの遺伝子変異により生じる。我々は、成人発症例の新しいEIF2B5遺伝子変異を報告した。eIF2αのリン酸化は、eIF2Bを抑制することによりアポトーシスに関与すると考えられている。認知症をきたすBinswanger型白質脳症にelFが関与しているとの仮説のもと研究を行った。 Binswanger型白質脳症5例、正常対照5例、他の神経疾患6例の剖検脳に対し免疫組織学的検討を行った。大脳白質におけるGFAP陽性細胞数は、Binswanger型白質脳症と正常対照間で有意差はなかった。しかし、大脳白質における抗リン酸化eIF2α抗体陽性細胞数は、Binswanger型白質脳症において有意に増加していた。また、抗GFAP抗体と抗リン酸化elF2α抗体の2重染色より、大脳白質における抗リン酸化eIF2α抗体陽性細胞は、GFAP陽性アストロサイトであることが確認された。次に関連するCREB-2,リン酸化GCN2,GADD、リン酸化MAPKの発現を免疫組織化学で検討した。CREB-2の発現は有意な差を認めなかった。リン酸化GCN2,GADD,リン酸化MAPKは、これまでの所、発現を認めていない。また、慢性脳虚血の動物モデルを用いて検討したが、検索した範囲では、リン酸化eIF2αの発現に明らかな差を認めず、CREB-2、リン酸化GCN2、リン酸化MAPKに関しては、発現を認めなかった。 今回の研究によりBinswanger型白質脳症の大脳白質病変形成においてアストロサイトの機能障害が関与している可能性が考えられたが、詳細な分子機序は更に検討が必要であると思われる。
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