研究概要 |
筋特異的チロシンキナーゼ(MuSK)は筋線維の後シナプス膜上に位置し,アセチルコリン受容体(AChR)と隣接して存在する.その機能は細胞外からagrin/rapsyn,細胞内からはDok-7と共にAChRのclusteringを制御し,運動終板の形成・発達に深く関わっている.このMuSKに対する自己抗体の発見により,抗AChR抗体陰性の重症筋無力症(seronegative MG)患者の一部を容易に診断できるようになった.さらには,抗AChR抗体陽性MGと比較すると,さらに女性優位,クリーゼになりやすい,胸腺腫が無いなどの臨床的特徴が明らかとなった.ところが,この抗MuSK抗体がどのようにして筋無力症を引き起こすかは未だ不明である.そこで,この抗MuSK抗体陽性重症筋無力症の発症機序を解明するために,ラットを用いて動物モデル作製を検討した.抗原としては,野生型マウスMuSKの細胞膜貫通領域及び細胞内領域を全て欠損している可溶性マウスMuSKを用いた.その結果,(1)MuSK免疫ラット(n=3)では,コントロール群(n=3)と比較すると体重減少が認められたが,明らかな筋力低下症状ははっきりしなかった.(2)抗MuSK抗体価は,コントロール免疫群と比較して,有意に上昇した.一方,抗AChR抗体価は,両群間で差はなかった.(3)抗MuSK抗体陽性ラットの四肢筋の神経筋接合部では,運動終板のAChR・MuSK量が共に減少しており,運動終板の形態学的異常(declustering fiber,図2)が高頻度に認められた.(4)MuSK免疫ラットではcontrolと比較して,横隔膜運動終板から記録されたMEPP振幅およびquantalcontentに差が無かった.以上の結果は,ラットの筋の部位によって,抗MuSK抗体の作用が異なることが示唆された.今後は,四肢筋の電気生理学的検討及び,抗MuSK抗体のサブクラス解析や補体介在性の検討が必要と考えられた.このモデルの抗MuSK抗体は運動終板に対して病原性を示しており,抗MuSK抗体陽性MGの発症機序を考慮する上で重要である.
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