研究概要 |
時間的・空間的に導入遺伝子の発現を調整可能なアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを使用して,パーキンソン病のモデル動物の線条体にドパミン合成系の酵素などの遺伝子導入を行い,positron emission tomography(PET)計測を含む解析により線条体の機能を明らかにすることを目的に研究を行った.ドパミン合成に必要なチロシン水酸化酵素(TH),芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC),GTP cyclohydrolase I(GCH)の各遺伝子を発現する3種類のAAVベクター(AAV-TH, AAV-AADC, AAV-GCH)を作製した.AAV-THベクターは,TH遺伝子配列の両端にloxP配列を挿入した.カニクイサルに選択的神経毒MPTPを慢性投与してパーキンソン病のモデルを作製し,片側の被殻にこれらのAAVベクターを注入した.AADC活性を反映する[β-^<11>C]L-dopa,黒質ドパミン神経細胞からの神経終末に存在するトランスポーターに結合する[^<11>C]β-CFT,ドパミンD2受容体に結合する[^<11>C]racloprideなどの各種リガンドを使用したPET計測とL-dopa投与による行動薬理的な評価を行い,線条体におけるドパミン機能を解析した.その結果,線条体における遺伝子導入発現は1年以上持続することが確認でき,局所のドパミン産生とそれに伴う運動障害の改善効果が得られることが明らかになった.線条体において,遺伝子導入された部位は被殻に限局されており,尾状核での遺伝子発現はほとんど認められなかった.運動の発現においては尾状核よりも被殻におけるドパミン機能が重要と考えられる.
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