研究概要 |
1)MALTリンパ腫に高頻度に認められる染色体転座t(11;18)(q21;q21)の本体がAPI2-MALT1遺伝子融合であることを明らかにした。API2-MALT1,API2,MALT1それぞれをtagを付加した発現ベクターを用いて各種細胞株にトランスフェクトし蛋白の安定性を検討したところ、API2,MALT1はproteasome阻害剤の添加により半減期の延長が観察された。一方、API2-MALT1キメラはproteasome阻害剤を添加しなくても半減期の延長がみられた。また、細胞内局在を検討したところ、API2は核と細胞質に局在したが、API2-MALT1キメラの形成によって局在は細胞質へ移動した。2)我々は、これまでに免疫沈降法とLC-MS/MSを組み合わせたプロテオミクスの手法により、API2-MALT1に会合する蛋白質の同定に成功し、すでに報告した(発表論文3)。これらは、アポトーシスに深く関わるSmac, HtrA2,TRAF2,Hsp70であった。同様な手法を駆使することによって、CARMA1,BCL10,MALT1,NEMOに会合する新しい分子を同定する準備は十分に整っており、そのような新規分子はすべて分子標的療法にとって理想的な標的分子となり得る。3)API2-MALT1下流シグナル伝達系の解析:NEMOのユビキチン化の解析抗原受容体シグナルBCL10/MALT1の下流において、MALT1自身あるいはTRAF6によるNEMO(IKK複合体の調節サブユニット)のユビキチン化がNF-kB活性化に不可欠であることが相次いで報告された(Nature2003,Mol.Cell 2004)。また、NEMOのユビキチン化部位として、399番目のリジン残基が候補部位であることが同時に報告された。申請者らも、399番目リジン残基に変異をもつNEMO発現ベクターを構築して同様な検討を行ったが、意外にもNatureの報告とは反する結果を得た。そこで、新たにリジン残基に変異をもつNEMO発現ベクターを総計15ヶ構築して検討した結果、NEMOのユビキチン化部位と思われる新しい標的候補部位を同定することに成功した。4)API2-MALT1抗アポトーシス作用 我々はAPI2-MALT1安定発現株を樹立し、この細胞株を用いてAPI2-MALT1が抗アポトーシス作用を有することを世界に先駆けて実証した。次に、この安定発現株を用いてcDNAマイクロアレイ法を行い、API2-MALT1下流標的候補遺伝子を同定することに成功した。引き続き、遺伝子上流の各種欠失ならびにNF-kB部位に変異を導入したコンストラクトを用いたレポーターアッセイを行い、現在までに少なくとも4つのAPI2-MALT1下流標的遺伝子を同定している(投稿準備中)。これらの標的分子もMALTリンパ腫の診断治療に役立つマーカーや分子標的療法のターゲットとなる可能性がある。
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