研究概要 |
近年人に中耳炎や下気道感染症を引き起こすNontypeable Haemophilus influenza (NTHi)がバイオフィルムを産生するという報告がなされるようになった。最近、本邦ではβ-lactamase-negative ampicillin (ABPC)-resistant(BLNAR)株の増加に伴い、特に小児の難治性中耳炎症例が増え、臨床上の問題となっている。今回我々はNTHiによるバイオフィルム産生に関して薬剤耐性株と感受性(BLNAS)株の間で比較検討し、抗生物質の同菌によるバイオフィルム抑制効果についても検討を行った。biofilm production assayおよび走査型電子顕微鏡を用いた検討ではBLNAR株,BLNAS株およβ-lactamase-positive ABPC-resistant (BLPAR)株間でバイオフィルム形成はほぼ同様であったが、b型H. influenza (Hib)では多くの株でバイオフィルム形成を認めず、形成がみられた株では莢膜の脱落が確認された。またバイオフィルム産生能をもつことが確認されたBLNAS株及びBLNAR株を96穴マイクロプレートに接種し、その後経時的に各種抗生物質(ABPC, cefaclor (CCL), erythromycin (EM), clarithromycin (CAM), levofloxacin (LVFX))を添加し、biofilm production assayを行うことにより各種抗生物質のバイオフィルムに対する効果について比較検討した。NTHiを2日間培養後にABPC, CCL, EM, LVFXを繰り返し加えた場合、ABPCやCCLでは薬剤の濃度を上げてもBLNAS, BLNARともにNTHiが産生するバイオフィルムの抑制効果はみられなかったが、EMやLVFXでは濃度依存性のバイオフィルムの抑制効果が認められた。以上の結果より多くのHibはNTHiに比べてバイオフィルム形成能は乏しいと考えられた。Hibにおいては莢膜の脱落がバイオフィルム形成能に肝要している可能性が高いものと考えられ、今後更なる検討が望ましい。ペニシリン剤やセフェム剤などにはNTHiが産生するバイオフィルムの抑制効果はみられず、マクロライド剤やキノロン剤には薬剤耐性、感受性に関係なくNTHiが産生するバイオフィルムの抑制効果があることが示唆された。今後、この抑制効果を生かした投与方法を検討することが重要と考えられる。
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