研究概要 |
1.平成17年度の研究期間では,セルラオートマトン法を用いて顆粒球系造血モデルの骨格を構築した。幹細胞から成熟好中球までの造血過程を分裂期細胞と非分裂期細胞に大別し、分化段階に応じて15段階に分画化した。実験的に得られている分裂回数および通過時間(分化に要する時間)に対応した計算ステップ数をそれぞれの分化段階に設定した。その特徴は,1)骨髄を想定した3次元空間に、2)生体の骨髄に存在する骨梁や血管を構造物として取り入れた近似的骨髄空間を構築した。3)細胞は局所近傍則に従って解析空間内の区分領域から隣接する区分領域へ移動し、分化・分裂する。4)細胞の動態を直接モニター上に表示し,5)解析空間内の全ての細胞の位置、分化段階は経時的に抽出可能とした。この造血モデル上で造血システムの恒常性維持、抗がん剤投与、およびG-CSF投与時の顆粒球造血過程の細胞動態を解析し、臨床データとの比較からモデルの有用性を示すことが可能であった。 2.平成18年度の研究期間では,1)上記解析結果の学会報告.2)シュミレーションソフト化,3)微小残存白血病細胞(MRD)の動態解析を行った. 【結果】1)学会発表:顆粒球系造血シュミレーションモデルを用いて造血システムの恒常性維持、抗がん剤投与、およびG-CSF投与時の顆粒球造血過程の細胞動態を臨床データと比較し,モデルの有用性を第4回International conference on computational methods in systems biology,in Trento, Italy, October18-19,2006で発表(演題:Granulopoiesis in Computational Haematology,ポスター発表)した.2)条件設定やデータの入力を簡易化することは,使いやすさの向上と解析時間の短縮を図ることが出来る.また,造血の基本理解を目指した教育ソフトとしての普及版を作成するためには汎用化(Windows/Mac対応)が必要と考え,まずはユーザーフレンドリー仕様のWindows対応版の開発を進めている.3)白血病幹細胞の存在が概念から事実的存在へと明らかになりつつある.微小残存白血病細胞(MRD)の動態を解析するために,白血病幹細胞をモデルへ導入し,正常幹細胞の動態との比較を開始した.MRDの骨髄細胞の正常分化への影響を動態解析から探り,臨床応用可能な再発予知因子を解明する.
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