研究課題
基盤研究(C)
色素細胞における肝細胞増殖因子(HGF)によるシグナル伝達経路をボスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3-K)の活性化に焦点を絞り解析した。まず、正常色素細胞、悪性黒色腫細胞ともにHGF刺激によりHGF受容体であるc-Metは活性化されるにもかかわらず、PI3-Kの活性化は黒色腫細胞においてのみ起こることを見い出した。また、HGF刺激の際、黒色腫細胞ではp85がGabl(HGFのシグナル伝達に必要な多くの分子をc-Metに集合させる働きをするc-Metのアダプター蛋白)と結合するのに対し、正常色素細胞ではこの結合が起こらないことを確認した。Gablにはアミノ酸配列上、プロテインキナーゼC(PKC)によって燐酸化されうる部位がいくつか存在することが明らかとなっていることから、PKCによるGablの燐酸化がGablの機能に影響を与える可能性を考え、各PKC分子種の遺伝子導入実験を行ったところ、黒色腫細胞で発現欠損がよくみられるβ分子種の細胞内導入は、HGF刺激によるPI3-K活性化を顕著に抑制し、かつGablの燐酸化状態が正常色素細胞の状態と近くなることを見い出した。また、β分子種の導入により、HGF刺激によるGablのチロシン燐酸化及びGablとPI3-Kの結合が阻害されることが明らかになった。さらに、HGF刺激による黒色腫細胞の浸潤能がPKCβ分子種やPI3-Kのドミナントネガティブ体導入により抑制されることを示した。以上より、PKCβ分子種は正常色素細胞においてはGablを燐酸化することによりHGF刺激によるPI3-K活性化を抑制しているが、悪性黒色腫細胞では発現欠損が起こることにより、その抑制が解除され、HGF刺激によるGablとPI3-Kの結合が起こり、その結果PI3-K活性化および細胞浸潤が起こることが示唆された。多くのメラノーマ細胞でPKCβ分子種の欠損が認められる現象は浸潤能獲得の1ステップであると推定した。
すべて 2006 2005
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