研究概要 |
統合失調症の脳では,大脳皮質灰白質に萎縮が存在することが報告され,その病態基盤における脳の気質的変化の関与が考えられるようになってきた。この脳内の萎縮は,神経ネットワークの維持・修復機構の障害に起因して形成されることが推察され,神経ネットワーク構築に関与する神経細胞の障害・神経新生の異常と統合失調症の脳病態との関連が注目されている。 はじめに我々は,(1)定型抗精神病薬と第二世代抗精神病薬が神経細胞の生存機能に及ぼす影響について解析した。ラット大脳皮質培養神経細胞を用いた検討で,第二世代抗精神病薬のみが栄養因子を除去する障害から神経細胞を保護する効果を有することを示した。また,近年,統合失調症の脳における神経細胞の脆弱性のきばんとして,ミトコンドリアや小胞体といった細胞内小器官の機能異常が着目されているが,複数の第二世代抗精神病薬が,小胞体ストレス由来の障害からも神経細胞を保護する効果を見出し,薬剤の細胞保護効果のメカニズムの新たな一端を明らかとした。 次に,(2)ラット胎児終脳から分離・培養した神経幹細胞を用いて,抗精神病薬が神経幹細胞の神経細胞へ分化する過程に及ぼす影響について解析を加えた。細胞の生存に影響を及ぼさない低濃度の小胞体ストレスが神経細胞への分化を強く抑制し,その作用は,第二世代抗精神病薬の併用処置によって抑制されることを示した。さらに,プロテオミクス解析を交え,定型抗精神病薬,および第二世代抗精神病薬が,小胞体機能に関わる蛋白質(GRP78,PERK)を含め,神経幹細胞の分化・神経細胞の発達に関わる複数の蛋白質発現に異なる影響を及ぼすことを明らかとした。
|