研究概要 |
近年,軽度認知機能障害(mild cognitive impairment : MCI)の概念が注目を集めている。正常と認知症の中間に位置し、認知症の診断基準を満たさないMCIの症例を、正常加齢の延長線上にあるものとして考えるのか、アルツハイマー型認知症(AD)の初期として捉えるのかには議論がある。またADに対するワクチンなど,新しい治療法の治験がわが国においても開始されたなかで,一般の集団の中からそのような認知症に至る群の治療の対象者をスクリーニングにより早期発見し治療やケアーにつなげることは、これからますます必要になると考えられる.そのため我が国の現状にあったスクリーニング方法として,わが国で最も利用されている長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を用い、その検査項目のうち,MCI概念の主な症状である遅延再生課題の障害がその指標となりうるかについてこの研究をおこなった. 1998年に和歌山県H町において、65歳以上の高齢者450名についてHDS-Rを用いた調査をおこなった。その内、HDS-Rが24点以上、想起課題で3点以下、認知症のないものをMIND(Memory Impairment No Dementia)として抽出した。 490例中MINDの基準を満たすものは85例(17.3%)であった。そのうち調査を終えたものは57例(67.1%)であった.57例中認知症に移行したものは8例(14.0%)で,下位分類のうちADは6例(7.1%)であった. 遅延再生課題の得点階層別にADへの移行をみると,0点では1例/2例(50%),1点では4例/6例(66.7%),2点では1例/13例(7.7%),3点では0例/36例(0%),であり特に0点,1点でのADへの移行はMIND群8例中5例(62.5%)にのぼった. 今回の結果より,HDS-Rでの遅延再生課題の低得点は将来ADに移行する割合が高く,AD発症の早期指標になると考えられる。
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