研究概要 |
我々は,X線干渉計を用いて透過X線の位相情報を画像化する装置を開発してきた。本装置は,被射体を透過したX線の位相変化を捉えているため,生体構成元素H, C, N, Oの濃度に対する感度が吸収率変化より約千倍高く,従来のX線透過イメージングでは描出できない生体軟部組織,癌,繊維組織,壊死などを無造影で鮮明に弁別できる。これまで,ヒト癌組織や小動物の摘出臓器(肝,腎,脾臓等)を用い,空間分解能10-30μmで組織の微細構造描出に成功してきた。本研究は,ヒト疾患の動物モデル(腫瘍,アルツハイマー病,腎疾患,虚血性心疾患,心筋症)を対象に,摘出した標的臓器の位相X線CT撮像を行い,各々の組織内の微細構造(病的変化,特定微小臓器,血管構造等)を定量的に3次元解析する手法を開発し,その有用性を評価する。 撮像実験は,高エネルギー加速器研究機構の放射光科学研究施設(PF)のBL14C1およびSPring-8の20XUで行った。特にPFの実験では,科学研究費補助金及び科学振興調整費で開発した位相X線CT装置を用い,大きな固定標本試料や生きた生体試料の撮影を行った。対象は,正常及びヒト疾患モデル動物(移植癌,アルツハイマー病,腎疾患,虚血性心疾患,心筋症)であった。 脳腫瘍モデルでは,造影剤を用いずに,腫瘍の局在及び広がりを組織顕微鏡画像とほぼ同様に捉えることができ,腫瘍体積の計測が可能となった。また,アルツハイマー病脳では,皮質及び海馬内にβアミロイド班が沈着している様子を立体的に観察できた。免疫組織標本像との重ね合わせ表示技術により,個々のβアミロイド班の数と大きさの計測を行っている。SPring-8では高空間分解能の位相CTでラットやハムスターの腎臓を撮影し,無造影で各々の糸球体の形状,密度変化と容積を算出する事が可能となった。本手法と4.74TのMRIと比較したところ,本手法で得られた画像のS/N比は約200高かった。このように,位相X線CT画像は,各種の疾患の病巣同定,組織密度の変化,大きさや数の定量評価に有用である事が示された。病理標本と対応(組織標本作成時に変形等が加わるため)させた特徴量抽出に関しては,更なる位置合わせ技術の改良が必要と考えられた。
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