研究概要 |
疫学研究としては、子宮頚癌の放射線治療後発生した2次がんのリスクを検討した。対象は、1961年から1986年に放射線治療を施行した子宮頚癌2167名である。治療後の追跡不明は60名,死因不明は82名であった.自然発生癌の期待値は、大阪府立成人病センター調査部作成の癌罹患率全国推計値を利用し,2次がんの相対リスクは,人年法を用いて求めた。10年生存者は1063名、20年生存者は717名、30年生存者は245名であった。2,167名の合計は25,771人年であった。計210名の2次がんの発生が認められた.全例の相対リスクは1.24(95%信頼区間:1.08-1.42)であった.これまでの欧米人を対象とした調査では10-30%のリスクが増加することが報告されているが、本研究により類似したリスクが日本人でもみられることが明らかとなった。2次がん全体の累積発生頻度は、115年で10.9%、25年で19.8%であった。累積発生頻度についてはこれまでに国際的報告がなく、放射線治療後の長.期経過観察における2次がんスクリーニングの重要性が明らかとなった。 実際の子宮頸がん症例の生検標本を用いて、放射線治療により発現する遺伝子蛋白について解析した。放射線治療前と9Gy照射時に子宮頸部の腫瘍から生検を施行し、免疫組織化学染色を用いて腫瘍組織におけるp53,p73,COX-2蛋白の発現とアポトーシス細胞をin situにて調べた。その結果、治療前にCOX-2が陰性、または、9Gy照射後のp53やp73が陽性である症例において放射線誘発アポトーシスの頻度が高かった。これにより、照射後の早期からp53に応答する経路が機能し、炎症に伴う遺伝子発現とも関連してアポトーシスが生じていることが示唆された。 ミスマッチ修復の突然変異を引き起こすMlh1蛋白は、遺伝性非ポリポーシス大腸がんの発症に関わると考えられている。我々は、大腸における慢性炎症と発癌作用の関連を調べるため、Mlh1ノックアウトマウスにおける大腸癌発生の基礎的検討を行った。慢性大腸炎は、Mlh1のステータスが異なる3種類のマウス(Mlh1-/-、Mlh1+/-、Mlh1+/+)に対して硫酸ナトリウム水を飲用水に混ぜることにより発生させた。Mlh1ノックアウトマウス(-/-)では、オスの63%、メスの44%にそれぞれ大腸癌が発生したのに対して、他の2種(Mlh1+/-、Mlh1+/+)では大腸癌の発生は認められなかった。また、硫酸ナトリウム処理を行わなかったMlh1ノックアウトマウスには大腸癌の発生は認められなかった。大腸癌の腫瘍組織における免疫組織化学染色では、p53とiNosの発現が増強していた。このことから、Mlh1の機能喪失状態における慢性炎症の存在は大腸癌の発がん過程に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
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