研究概要 |
甲状腺未分化癌における脱分化の期序を知る目的で遺伝子DNAのメチル化による遺伝子発現の変化についての検討を行った。甲状腺未分化癌細胞株5株(ACT-1,KTC-1,TTA-1,OCUT-1,OCUT-2)を用いた検討から、いずれの細胞株でもP16遺伝子の発現異常が確認された。ACT-1,OCUT-1,OCUT-2ではメチル化が、KTC-1では遺伝子の欠失が、TTA-1では遺伝子変異が認められる結果であった。また、TTA-1ではE-cadherin遺伝子のメチル化が認められたが、他の細胞株ではメチル化は認められなかった。また、BRCA-1,DAP kinase,h MLH-1遺伝子のメチル化はいずれの細胞株でも認められなかった。甲状腺の発生・分化に関係すると考えられる遺伝子、TTF-1,PAX-8はいずれの細胞株にとても発現が認められており、脱メチル化剤である5Aza-dCの暴露によって発現に変化は認められなかった。また、脱分化剤の暴露によっても、細胞の分化を示すような形態変化は認められなかった。以上より、甲状腺未分化癌細胞株における遺伝子のメチル化による発現異常は限られた遺伝子にのみみられ、過去の報告で示唆されているような普遍的な変化ではないと考えられた。さらに、脱メチル化剤による細胞増殖の変化について検討したが、有意な効果を認めることができなかった。甲状腺未分化癌に見られる特徴的な遺伝子発現以上のひとつとして、p16遺伝子の発現低下が示された。p16の発現低下は、細胞回転のG1期におけるチェックポイントの破綻により、癌細胞の無秩序な増殖を引き起こす。甲状腺癌の脱分化による未分化転化の過程において、G1チックポイントが重要な働きをしているものと考えられた。
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