研究概要 |
本研究の目的は難治性である胃癌腹膜播種の新規治療開発として,ウイルス療法に着目した.当該研究期間3年(平成17年-19年)の初期目標である腫瘍特異的溶解型ヘルペスウイルスの開発を達成できた.腫瘍溶解型ヘルペスウイルスの開発にあたっては,腫瘍細胞に対する殺細胞効果の増強だけではなく,ヒト臨床応用を想定した場合の安全性の確保が問題である.当初の研究計画では,ある種のviral fusogenic membrane glycoprotein(FMG)は標的細胞に対してsyncytial formation(細胞融合)を引き起こすことが知られており,中でもgibbonape leukemia virus envelop glycoprotein(GALV.fus)のC-terminalを欠失させた蛋白は非常に強力なsyncytiumを形成することが可能であると考え,腹膜播種という病態を考えた場合,このGALV.fusがoncolytic HSVにおいて発現出来るように改変出来れば,腹腔内投与で合理的かつ有効な効果を期待出来ると予想し,この分子を発現するウイルスを開発した. それに加えて,腹膜播種の進展に強く関係する結合組織にも着目した.腫瘍辺縁ストローマ(stroma)とは,正常宿主組織と腫瘍細胞の間に発生してくる結合組織で,線維芽細胞とコラーゲンを主とする細胞外より成る.stroma組織は腫瘍が栄養・ガス交換に必要とする血管系を供給する.事実,腫瘍が一定のサイズの塊を形成した後さらに増殖する時には,必ずstromaを必要とする. そこで,腫瘍だけに治療のtargetを絞らずに,腫瘍stromaを崩壊させる治療が開発出来れば,腫瘍の進展を抑制出来る可能性がある.本研究では,腫瘍辺縁stromaにbindingする分子として注目されているtumor-necrosis factor superfamily memberのひとつであるLIGHに着目し,これを強発現するoncolytic HSVを作成して,腫瘍辺縁stromaの崩壊から誘導される一連の殺腫瘍効果と効率の良い腫瘍免疫の誘導効果を証明し,その機序についても解明する予定としたが,開発の初期段階において,このLIGHTが予想よりも腫瘍間質に対する効果が弱いことが判明した. これに対する改善策としてoncolytic herpes simplex virus-2(HSV-2)に着目し,米国ベイラー医科大学との共同研究として,FusOn-H2というヘルペスウイルスを開発し,基礎実験において強力なウイルスとして期待できることを確認した. 以上,研究期間において,若干の修正は必要としたが,新規ヘルペスウイルスを2種類開発したことになり,将来の臨床応用に向けて更なるウイルス改変作業を継続している.
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